2015年9月2日水曜日

坐骨神経痛-1

 坐骨神経痛とは一般に良く聞く名前で、かなりポピュラーなものですが、これは一群の症状についた名前であり、病名ではありません。坐骨神経は末梢神経のなかで最も太く長い神経です。第4、5腰神経と第1~3仙骨神経からなり、梨状筋の下を通って大腿後面を下行し、膝の裏で総腓骨神経と脛骨神経に分かれます。神経が腰椎の隙間から出て骨盤をくぐり抜け、お尻の筋肉から顔を出す間のどこかで、圧迫を受けた結果として発症するのが坐骨神経痛です。

 年齢により異なりますが、若い人の場合最も多いのは、腰椎椎間板ヘルニア、次に梨状筋症候群が挙げられます。腰椎椎間板ヘルニアは比較的急激に発症し、仰向けの状態で下肢を伸展挙上すると坐骨神経痛が増強する(これをラセーグ徴候といいます)のが特徴的です。ほとんどの場合、片側の坐骨神経痛が出現しますが、ヘルニアの位置や大きさにより両側に見られることもあります。梨状筋症候群は比較的緩徐に発生し、通常はラセーグ徴候が陰性となります。梨状筋間で坐骨神経が絞扼され、仕事や運動でストレスが加わり発症することが多いようです。

 一方、高齢者では変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの変形疾患に多く見られ、また帯状疱疹により坐骨神経痛を発症する場合もあります。その他、年齢に関係なく特殊な疾患として、脊髄腫瘍や骨盤内腫瘍などが挙げられます。こういった腫瘍性の病変で坐骨神経痛を発症する場合は、痛みが非常に強く、保存的治療で治りにくいのが特徴です。

 原因疾患に関わらず、まずは症状を緩和する対症療法が主体です。日常生活の指導→薬物療法→理学治療→ブロック注射の順で治療を進め、それでも痛みが軽減しない場合や歩行障害、麻痺といった他の神経症状を合併する場合に手術が行われます。急激に発症する腰椎椎間板ヘルニアの場合、まずは安静が原則です。高齢者の変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの場合、必ずしも安静が必要とは言えませんが、下位腰椎にかかる重荷を減らす目的で、長時間の座位姿勢を避けたり、コルセットを装着することも有用です。

 非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服薬や坐薬が主に用いられます。比較的長期間投与される場合が多いため、胃腸障害などの副作用に注意しながら使用します。また、腰脊柱管狭窄症では神経組織内での血流障害が原因の一つと考えられており、循環改善を目的としてプロスタグランディン(PG)製剤の内服や注射も用いられます。温熱治療としてホットパックや極超短波などが用いられます。腰痛を合併する場合に牽引療法もよく用いられていますが、治療期間を短縮するほどの効果が有るとは言えません。しかし、リラクゼーションという立場からも疼痛を軽減させる一つの手段であると考えて良いと思います。

2015年8月24日月曜日

地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂

 8月の20、21、22の三日間をかけて、兵庫県の養成医師の卵うち16名を迎えて「地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂」を開催しました。医学部の学生さんたちですから、即戦力になるわけではありません。しかし、普段はあまり見かけることのない20歳前後の若い医学生を迎えて、とても病院がにぎやかになり、活気が出てきました。20日の午後に病院に到着、簡単な挨拶と各部署の案内の後、私はいったん若い人たちから離れ、普段の業務を行いました。そして19時ごろ、庁舎の多目的ホールに町民のみなさんをお招きして、病院の紹介、学生さんからの発表、そして質疑応答を行いました。
会場の椅子の8~9割がたが埋まりました

 こうした行事には必ずと言っていいほど、「院長あいさつ」なるものがついて回ります。私は、ご存知の方もおられるかもしれませんが、あいさつなどが苦手です。内心ひそかに『皆さん、こんばんは。今日はよくいらっしゃいました。以上。』といったことで切り上げてしまいたい、などと思っていましたら、病院の事務方が私の意図を事前に察知したのか原稿を準備していました。自分でも不思議なのですが、学会でスライドを前にすると、30分が1時間になっても、別段プレゼンに困ることはありません。

 一般的に挨拶では、高々2分ほどしゃべれば言い訳で、学会発表の際でしたらスライド2枚分程度なので、簡単に覚えられるはずです。ところが覚えられない。どうやら、読み上げるべき原稿として私に手渡されたものが私自身の言葉で書かれていない、このことがかなり大きいと思いつきました。いくつか表現を普段の私の言葉に置き換えてみました。文章を短くして記憶への負荷を小さくもしました。それでも覚えるのが難儀です。もしかすると記憶障害?そういえば、当院の八幡君が受け持つ外来に認知症外来と言うのがあるといってました…
発表した学生チーム、八幡医師、岡山教授、土江参事

 結局悪あがきはやめて、読み上げることにしました。ああ、格好悪い!!それはともかく、夏季セミナーは成功裏に終わったと言っていいでしょう。なんといっても、多目的ホールでの講演会がほぼ満席になるとは全く予想できませんでした。そして町民の方々を交えた質疑応答も、中には学生さんたちをたじたじとさせるものもありましたが、町民の方々の医療への思い、浜坂病院への期待などがにじみ出ていて、私たちにとっても大いに励みになりました。

 翌日は学生さんたちを歓待して、バーベキュー大会を行いました。
ウマハギを3枚におろして刺身にする副町長


浜坂を支える100 t の漁船
ミュージシャンが来てくれて会を盛り上げました




浜坂漁港の一角をお借りできたので、時折ぱらつく雨を気にすることもなく盛大にバーベキュー大会を盛り上げることができ、学生さんたちにこの新温泉町の現状を強く印象付けることができたのではないでしょうか。
『歓待していただき、厚く御礼申し上げます』と医学生代表より
このような試みは来年以降も続けて行きたいと思っています。どうか、こうした私たちの取り組みにご理解とご協力を賜りますよう、お願いいたします。m(_ _)m

2015年8月13日木曜日

脊椎の構造と痛みの発生


 脊椎の形態、運動面で正確に機能している場合に痛みが起こることはありません。つまり、腰痛は脊椎の機能ユニットやその周辺のどこかで痛みに感受性のある組織が刺激を受けて興奮していることになります。それは脊椎の機能障害を示唆します。痛みを起こしている状態の大部分が腰椎と仙骨のなす角度が増大したことによります。これは脊椎前彎と言われる状態です。運動と無関係に起こる腰痛の75%が脊椎前腕を有していると言うことです。そのあたりのことを以下に詳しく述べます。

 脊柱は分節が連結したものです。各分節は、脊椎の中での位置によって形に違いがありますが、ごく一部を除いてとても類似しています。胸の部分は背骨から前のほうに肋骨が出ていて、大きな管のような構造になっており、比較的構造が保たれやすくなっています。問題は腰の部分です。加齢とともに筋力は低下してきます。そうすると、背骨の自然なカーブを保つために作用していた腹筋の筋力低下のために、腰の部分の背骨が前方に大きく湾曲するようになります。

 脊椎前腕の最大のポイントが仙骨と腰椎の間の角度が大きくなると言う形で現れます。この角度が大きくなると、腰椎が前方に辷る(すべる)と言うことが起こり易くなります(腰椎辷り症)。この辷り症を起こさない様にする自然の対策は椎間板を楔形にして、腰椎体が前方にすべる力に対してブレーキをかけることですが、そのために今度は椎体後面が直接接触する(kissing supine)と言うことが起こります。これまた痛みの原因になります。またもう一つ、痛みの原因となる事を考えなければなりません。

 背骨の後方を構成する骨の上下間の隙間(椎間孔)が狭くなり、神経が圧迫されると痛みや痺れが見られるようになりますし、運動神経が圧迫されると力が入りにくくなります。こうした事態を避けるには腹筋を鍛えておくことが重要です。何もへとへとになるまで筋トレをする必要はありません。起床時に足を20度ほど上げる(両足を同時に上げるほうが望ましい)、その際に上体も20度ほど起こして、お尻を真ん中にしてV字形に30秒保ってください。そうしたら30秒休んで、さらに30秒の腹筋、30秒休んでもう一度という具合に3回やってください。

 両足を挙上する時に上体も起こす理由は、足だけ挙上すると背骨がそっくり返って、その位置でロックされてしまい、ますます背骨のカーブがひどくなる可能性があるからです。この運動を2ヶ月も続けると、姿勢が良くなります。もしかすると身長も伸びるかもしれません。大きく前方にカーブしていた背骨が少しゆるいカーブになるからです。もしかすると、計測上ではわからない程度かもしれませんが、姿勢が良くなると、腰痛発生の原因のひとつを除去することが出来ます。

 骨盤牽引も良い対処法です。その際、骨盤下のストラップを牽引することで骨盤を挙上させ、前彎を減少させることが出来ます。骨盤牽引と言うリハビリテーションは、引っ張っているときは気持ちがいいけど、その時間が終わると元の木阿弥、そう感じている方が多いと思います。しかし、痛みと言うのはとてもデリケートな問題で、ちょっとした事で大きく変わってきます。私など、若い自分に何かに頭をぶつけてうずくまっていたときに、よちよち歩きの自分の子供がそばに寄ってきて、頭にもみじ葉のような小さな手を添えて『痛いの痛いの飛んで行け~』とやってくれたら痛みが退いて行ったと言う経験があります。かように痛みは微妙な気分に左右されるのです。

 ですから、リハビリの部署まで歩いていって、信頼できる理学療法士の指導を受けてリハビリに励むと、それだけで痛みがある程度和らぐ人が少なくないと思うのです。そして、毎日の積み重ねで気が付かないうちに仙骨の角度付けが小さくなり、腰痛を起こす原因の一つがある程度取り除かれていると言うことも考えられます。要は辛抱強い積み重ねなのです。そうした方法で痛みが取れない場合、薬物を局所に注入すると言う手段がとられることがあります。

 筋、靭帯、椎間関節から起こる痛みに神経脱落症状が同時に見られることはまれで、横突起間靭帯付近に局所麻酔薬を注射すれば痛みが消えることが多いと経験上わかっています。消えない場合、そのあたりを電気焼灼することで痛みが消退することもあるのですが、この電気焼灼はそれなりに複雑な手続きが必要ですので、当院では行っていません。

 腰痛の発生には、高血圧や糖尿病のように生活習慣に起因する面が多いので、どこそこに行けば治してくれる、などと考えないで、自分で出来るだけ腰痛発生の原因を減らして健康で快適な生活を送るようにする、これが一番大事です。常識的なことしか書けないでごめんなさいと言うところですが、自分の健康は自分で守る、それが一番快適だしお金もかかりません。

2015年8月7日金曜日

加齢と腰痛


 高齢者の宿命として腰痛があります。腰痛の原因としては様々なものがあり、Ehrlichさん(腰痛を専門としているお医者さん)によると世界中の様々な文化圏で同様な発生頻度を持っているそうです。そして病院や診療所を受診する際の最も一般的な理由だと言われています。急性腰痛は治療とあまり関係無しに3ヶ月以内に治まるとも述べています。これは外からの恒常的な刺激無しに組織の損傷が治癒していくのに要する期間と言い換えてもいいでしょう。一方慢性腰痛は様々な問題をはらんでいます。外科的な方法で問題解決を図ることも少なくありませんが、満足できる結果になることは少ないようです。

 もちろん腰痛の中には脊椎や骨盤とそれを囲む筋肉に原因が無いものもあり、そちらのほうには腹部大動脈瘤が急に大きくなって破裂間際と言う奴とか、内臓疾患で痛みが腰背部に放散するために生じたものなどもあり、致命傷となるものがありますので、全部が全部痛み止めの貼付剤を処方すればいいといった安易な対処では時としてとても具合の悪い事態になる場合があります。もっとも、長いこと同じような部位が同じような具合に痛むと言う場合には、そういったことは余り考えなくてもいいと思います。

 物理的な原因による背部痛には、バイク事故、転落、骨粗鬆症による圧迫骨折、長期間のステロイド処方を原因とした骨粗鬆症などが挙げられます。他には椎骨の感染、骨腫瘍、椎体への転移等もまれにはあります。こうした原因の特定できるものはEhrlichさんによれば全体の20%以下らしいのです。英国では背部痛が原因の欠勤が延べ1億日にのぼるとされています。原因がはっきりしない背部痛は、一般に立位の姿勢と関係していると思われていますが、そうではなさそうです。ただし、肥満と妊娠後期は脊椎の不自然な『曲がり』の原因になりえます。そのほか舗装道路上でのジョギング、車の座席に長時間座りっぱなしなどというのも背部痛を誘発します。

 一般に腰痛に対する治療としては以下のようなものがあげられます。
1.        非ステロイド性消炎鎮痛剤
2.        麻薬
3.        コルセット装着
4.        筋トレ、リハビリや体操など
5.        ステロイド性消炎鎮痛剤
6.        三環抗鬱剤
7.        中枢性筋弛緩剤
8.        温泉
 
 いずれの手段を用いても、目指す腰痛の解消に至ることはまれです。特に慢性の腰痛に関しては、まず痛みがなくなることはありません。

1. 非ステロイド性消炎鎮痛剤は一応痛みを自制内に押さえ込むことが出来ます。しかし長期連用で様々な問題を引き起こすのです。消化管の『荒れ』を予防するために、胃粘膜保護剤などを同時に服用する必要が出てきますし、長期連用で腎臓へのダメージが顕在化することもあります。またその種類によっては心血管系に良くない影響を及ぼすと言う報告もあります。

2. 麻薬はお奨めできません。うつろな瞳と震える手で『薬(ヤク)をくれ~』などといっている姿を想像してください。冗談はさておき、麻薬の副作用は多岐にわたります。消化管の蠕動運動が抑制されますので、便秘になりがちです。胆嚢も胆汁がたまって柿羊羹のようになることがあります。服用量を間違えると呼吸したいと言う気持ちが消えうせることもありますし、蕁麻疹やかゆみの原因になることもまれではありません。

3. コルセット装着で一時的に楽になりますが、筋肉が萎縮して行ってやがてコルセット無しではやっていけなくなります。しかも、廃用性に筋肉が萎縮すると、コルセットが骨に当たってそこが痛くなると言うことも起こります。長期にわたって装着すべきではありません。

4. 筋トレ、リハビリや体操はきちんとやればそれなりに効果があるのですが、きちんとやることが難しい。同じような、そしてある程度肉体的な苦痛を伴うことを長期間反復して行うことは、多くの人にとって難しいものです。筋トレやリハビリの最大の難点がそこにあります。

5. ステロイド性の薬剤もまた一時的な効果しかなく、ステロイド性糖尿病、ステロイド性骨粗鬆症、電解質異常、ホルモンバランス異常、感染症にかかりやすくなるなどの問題が噴出するので好ましい解決策とはいえません。

6. 三環抗鬱剤は睡眠のサイクルに対して影響してくるので、服薬の時間やタイミングなどに神経を使う必要があります。

7. 中枢性筋弛緩剤も効果が限られています。むしろ急性腰痛症(ぎっくり腰など)に使うべきかもしれません。これは一過性の筋力低下を伴うので、転倒⇒骨折と言う危険が付きまといます。

8. 温泉療法はわが国で発達したもので、リハビリ施設などでも用いられることがありますが、効果の客観的評価が難しいので、一般化されていません。しかし泉質の良いぬるめの温泉にゆっくり浸かると疲れが取れるのは間違いありません。この方法の最大の難点はコストです。私は井筒屋さんの屋上の温泉が大好きなのですが、食事などを注文しないでそ知らぬ顔をして利用するのはルール違反ですね。

 ではどうすればいいのでしょうか。いくつかの原因については、早めに予防することが出来ます。その予防とは骨粗鬆症にならないようにすることです。男性は加齢による骨格の脆弱化が女性よりゆっくりやってきます。女性は閉経に伴って、カルシウム代謝が大きく変化し、骨粗鬆症の発生に向かっていきますので、それを予防することが大切です。まず骨に必要なカルシウムをちゃんと摂取することが大切です。

 カルシウムは消化管から吸収されて、血液に溶け込み、体のいろんな部位で大切な役割を果たしていますが、血液中のカルシウム濃度が低いと骨からカルシウムを借りてきます。赤字国債のようなものです。血中カルシウム値が上昇したら借りた分を返すことも出来るのですが、消化管からの吸収率も低下してきますので、返却できるようにはなりません。ですから、私たちが出来るお手伝いは、まずカルシウムの吸収を良くし、体で利用しやすいようにすること、そしてカルシウムが不足するときに骨から借りてくるのを邪魔すること(銀行の貸し渋りにあたる)です。さらに骨の組織で新たに骨格構造を作っていくということも考えられます。

 こうした治療法を組み合わせながら何とか腰痛をなだめすかして生きて行く。そういったことしか言えません。しばらく、私が当院で向き合っている様々な痛みについて、述べて行きたいと思います。

2015年7月31日金曜日

骨粗鬆症の治療戦略


 今回で骨粗鬆症に対する項目を一応終えたいと思います。女性は45歳頃から急激に骨密度が低下するので、ちゃんとした対策が必要です。まず常識的なところとして、別のブログに紹介していますが、若い頃に、妙な思い込みに従ったダイエットでカルシウム摂取を極端に減らすと言うことをやめるべき( http://landarzt.blog.fc2.com/blog-entry-935.html )です。更年期を迎える前に、既に骨粗鬆症予備軍状態になっていると、50歳前後で腰椎の病的骨折(圧迫骨折)を起こしてしまい、それから40年に及ぶ腰の曲がった生活を強いられかねません。

 しかし、骨粗鬆症の最初の項で述べたように牛乳のがぶ飲みで一過性に血中カルシウム濃度を高めると言うやり方にも弊害があるようで、コンスタントにゆっくり吸収されるカルシウム摂取をしていく必要があります。そして危険な年頃になったら、まず定期的に骨塩定量の検診を受けることです。年に一度程度でいいと思います。そして骨密度が低下していたら(その頃でしたら、食生活の改善などで一年ほど費やしても構わない)行動を起こす必要があります。最初食事指導、運動、日光を良く浴びるようにするといった日常生活の改善から始めましょう。

 もし最初の骨塩定量の結果が既に病的な低下を示していたら、薬剤による治療を開始すべきです。治療は血液中のカルシウム濃度が正常範囲にあるか低いかで違ってきます。カルシウム濃度が正常範囲にあれば、ホルモン剤(エビスタ®とビビアント®)を開始します。カルシウム値が低ければ、ビタミンD3(VD3)製剤をホルモン剤とともに開始します。この治療中に、血液中のカルシウム濃度を二ヶ月に一度測定し、もしカルシウム濃度が低下し、VD3製剤未使用なら併用することになります。治療中に骨密度の測定を最初は半年に一度行い、治療効果を見ていきます。余り芳しくないようでしたら、他の薬剤に切り替える必要があると思います。

 65~70歳になったら、上記のホルモン剤からビスフォスフォネート製剤に切り替える事を薦めます。男性の場合は最初に選ぶお薬がビスフォスフォネート製剤になると思います。効果が無ければテリパラチド系の薬剤になりますが、これはお薬のコストが他の薬剤の10倍から20倍になってしまいますので、年金生活になる時期にお金のかかる薬にチェンジするのは厳しいのではないかと思うのです。この薬は使用制限が確か2年まででしたので、仕事の収入がある時期に使うようにしたいと思います。

もう一つ、抗RANKL抗体という選択肢もあります。半年に一度の皮下注射ですし、薬価も先に上げたテリパラチド製剤よりもはるかに安くつきますので、使いやすいのですが、半年に一度と言うと、次回皮下注を忘れてしまうと言う不安があります。ビスフォスフォネート製剤にも半年に一度とか1年に一度の注射と言うのが開発されつつあります。その種の薬剤は、記憶力の衰えが目立つとしになると、正直言って使いたくないものです。なお、この群の薬剤は5年以上続けると効果がうせると言われています。

腰椎の圧迫骨折などで我慢できない痛みがあるときなど、カルシトニン製剤が効果を示すようで、私も何度かこの薬を処方したことがあります。2~3日で痛みが引いてくるようですが、これが薬の効果によるものか自然経過なのか分かり難いものがあります。しかし、『痛い痛い』と言っている人に、圧迫骨折による痛みを除く目的で薬効が認められている薬を投与しない群と投与する群で痛みの退く期間を比較すると言うのは、余り褒められたことではないと思いますので、当院ではそんなことはしていません。

骨粗鬆症への対処法をまとめると、①若い頃の食生活の改善、②45歳を過ぎたら骨密度の検査を定期的に行う、③骨密度が低下し始めたらエビスタ®かビビアント®の服用を開始する。その際、骨塩の定量検査は定期的に行う、④前期高齢者になる頃にビスフォスフォネート製剤に切り替える、⑤ビスフォスフォネートを4年半ほど続けたら抗RANKL抗体に切り替える。お財布にゆとりがあればテリパラチド製剤を⑤の前に使うと言う選択肢もある。

大まかに言うと、以上のように進めるのがいいと思うのですが、85歳頃になって、圧迫骨折による腰痛で始めて来院するといったケースが後を絶ちません。腰が激しく曲がった状態で日常生活を送るのは決して快適ではありませんので、45歳前後になったら受診するようにしたほうが望ましいと思います。そしてダイエットに対する関心が最も高い10代後半から20代の頃に一度病院を受診して骨密度を測り、その際栄養指導を受けると言うのが理想的です。

2015年7月24日金曜日

骨粗鬆症の治療薬


 病院で骨粗鬆症の治療を受けるためには、まず骨粗鬆症であると言うことが診断される必要があります。別になんとも無いのに、『あなたは骨粗鬆症だからこの薬を飲みなさい』と言うような乱暴な話は認められないのです。これは他の病気でも同じで、ちゃんと診断をつけた上で治療をする、これが疾患に対する治療の原則です。もちろん、原因がはっきり分からないけどとても具合が悪い、そんなときにはまず対症療法をやりつつ、原因を探ると言う方法を採りますが、現代の医療では治療と診断が密接に結びついています。

 では骨粗鬆症の診断はどうすればいいのでしょうか。高所から落下したとか脊椎に対してとても過酷な運動(ウェイト・リフティングなど)をしたと言う事がないのに腰椎の圧迫骨折が認められ、悪性腫瘍などの痕跡がなければ、それは病的な骨折、骨粗鬆症と判断できる状態です。45歳を過ぎた女性では骨の特定の部位がどの程度X線を透過するかといった検査を行う事があります。これでその人の年齢の平均値よりも低い場合には骨粗鬆症と判断できるのですが、女性は男性よりもベースラインが低く、しかも加齢による骨量の落ち込みが急なので、女性の平均を採るべきではないと私は考えています。

 そして骨密度がある水準よりも低いときには薬物による治療を開始するのですが、骨量の低下がはなはだしい女性のほうが治療の選択肢はたくさんあります。そして骨粗鬆症の発生頻度は女性のほうが男性と比較して圧倒的に多いので、主に女性の骨粗鬆症治療について述べて行きたいと思います。ここで取り上げる薬は男性にも使えるものについて各々そのことを注記すると言う形でお話を進めましょう。

 歴史的に古いものにビスフォスフォネート系の薬剤(男性にも用いる)があります。これは破骨細胞の活動を抑制するものです。そのほかに利用できる薬剤には活性型ビタミンD、ビタミンK、カルシウム製剤の投与や、SERM・エストロゲン、遺伝子組換えヒトPTH(1-34)などがあります。エストロゲンの投与は乳癌の発生率を高める副作用があるので積極的にお奨めできません。SERM(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)は閉経後女性にのみ有用です。一つ一つ見ていきましょう。

 ビスフォスフォネート系薬剤は服用法が煩雑だという欠点があります。毎朝、起床時(朝食前)にコップ1杯以上の水(180cc以上)で薬を飲み、服用後30分は食事を摂らず、横にもならないというもので、私の妻はこれで挫折しました。このような短所を改善するために近年、ビスフォスフォネート系骨粗鬆症治療薬の週1回服用型製剤が開発され、普及しています。毎朝服用するタイプか週1回服用するタイプかの選択はコンプライアンスの良し悪しで決まるとされますが、辛い思いは少ないほどいいと思いますね。月一回服用製剤も今では実用化されています。またFDAは大腿骨頸部骨折後の骨折予防にゾレドロン酸(ゾレンドロネート)の年1回静注を承認しました。

 大規模な効果判定がこのビスフォスフォネート系製剤についてなされていて、はっきり骨密度増加、椎体骨折予防、長管骨など非椎体骨骨折の予防において効果が認められるものとしてはフォサマック®やボナロン®など第二世代、アクトネル®、ベネット®などの第三世代のビスフォスフォネートが挙げられます。服用時の注意はどれも同じようなものです。この何らかの秘儀のような服用の仕方は、この群の薬剤がとても消化管から吸収されにくく、空腹時に飲んでしばらくじっとしておくことで逆流を防止し、その間に吸収させると言う理由があるのです。

 一方、ラロキシフェン・バゼドキシフェンはSERMと言う群に分類されるお薬で、エストロゲン受容体に対する部分的に作用する薬であり、骨代謝ではエストロゲンと同じ作用を示し、骨外ではエストロゲンに抗した作用を示すものとして作用するものです。この群に属する薬剤は先に上げたビスフォスフォネート製剤ほどの服薬時の煩雑な取り決めはありません。そしてこの薬の抗エストロゲン作用のために、高脂血症、乳癌のリスクも低下させる、一石二鳥の薬剤です。商品名はそれぞれエビスタ®とビビアント®です。

 活性型ビタミンD3製剤(男性にも用いる)はそれほど効果が認められているわけではありません。骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会における推奨度では、Bランク(先のビスフォスフォネート製剤やSERMは推奨度がAランク)に入ります。圧迫骨折に伴う痛みにはカルシトニン製剤が効果を示しますが、これは先の骨粗鬆症治療効果からすればBランクです。特徴は血液中のカルシウム濃度を上げることです。

 テリパラチド(男性にも用いる)は 遺伝子組換えヒトPTH(1-34)はヒト副甲状腺ホルモンのN末端1番から34番までのみを遺伝子組換えにより製剤化したもので、皮下注射であるため病院通いの回数が増えるという意味で服薬コンプライアンスには問題がありますが、骨量増加作用は上記の薬剤と比較して最も高いとされています。商品名フォルテオ®とテリボン®があります。テリボンは週一回の皮下注、フォルテオは毎日の皮下注で、これは自分で注射するものです。毎週1回通院するのは大変だと思いますが、自分で注射するのも敷居が高い、困ったものです。

 デノスマブ(男性にも用いる)は 抗RANKL抗体で破骨細胞の分化・成熟・活性化シグナルであるreceptor activator of nuclear factor κβ ligand(RANKL)に結合することにより、骨吸収を抑制するものです。つい2年ほど前に実用化されました。RANKLというのは、破骨細胞の形成、機能、生存において必要なタンパク質で、デノスマブはそれを抑制し、皮質骨、海綿骨の骨量を増加させます。この薬剤の作用は上記A-ランクの薬剤よりも強力だと言われていますが、最大のウリは半年に一回の注射でよいと言うものでしょう。

 私の知るところではまだ大規模試験が完了しておらず、テリパラチド製剤などに対する優位性が証明された訳ではないはずです。真の実用化にはあと1~2年かかると言うことでしょうか。ここに挙げた薬にはそれぞれ副作用があります。ビスフォスフォネート系薬剤とデノスマブには顎骨壊死と言う副作用が上げられています。歯の治療をするときなどには一時服薬を中止しておくほうが安全なようです。そのほか、骨からのカルシウムの溶け出しをブロックしてしまうので、低カルシウム血症が発生する場合もあり、ビタミンD製剤を併用する必要がある場合も多々あるようです。

 最後に、コストについて調べたことをあげて起きます。ここでは保険で負担してくれる額とあわせた総額、それも一年間続けた場合の費用について述べます。安いほうから並べていくと、フォサマック®(31,000円ほど)、ボナロン®、ベネット®、アクトネル®、リカルボン®、ボノテオ®、エビスタ®、ビビアント®、プラリア注®、ボナロン注®、ボンビバ注(60,000円強)と続き、テリパラチド製剤は二つとも640,000円ほど、つまりテリパラチド製剤は先発の薬剤の10倍~20倍の財政負担を強いるので、年金生活者には辛いものがあります。

2015年7月17日金曜日

骨粗鬆症と生活習慣上の対策


 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という言葉を聴いたことの無い人は、現在のわが国では少数者でしょう。ある程度の年齢になると、特に女性に多く見られる、骨の支持力が低下するものです。女性に多く見られるのはエストロゲンというホルモンが骨の代謝に関わっていて、閉経の時期にそのホルモン量が低下することと関係しています。そして骨の密度が低下すると、骨がとても脆い海綿状になって、簡単な圧力で潰れたり(圧迫骨折:腰椎に多い)骨折(大腿骨など強い力の加わる長管骨に多い)したりします。

 骨の中の代謝は破骨細胞により骨成分を溶かすことと、骨芽細胞によって骨を作ることがほぼ同時平行的に進んでおり、動的なバランスを保っています。エストロゲンが減少すると、骨芽細胞の働きが鈍って骨の作られる速度が溶け出す速度を下回って、骨質がだんだん減少してくるようになるのです。また破骨細胞の機能はホルモンバランスの崩れで暴走しやすく、骨芽細胞の機能低下と破骨細胞の暴走が同時に現れると急激に発症する骨粗鬆症による異常骨折などが見られます。

 女性ホルモンのエストロゲンは女性にだけ存在するものではありません。男性でもエストロゲンが分泌されており、その分泌量の減少と骨密度の低下が相関していることは明らかにされています。女性のほうがもともとの骨量が少ないので、密度低下の影響が強く出やすいのですが、男性でも年齢を重ねると圧迫骨折などの異常骨折の頻度が高くなってきます。(余談ですが男性には卵巣が無いので、エストロゲンは構造的に似ているテストステロンから作られます。)こう書き記すと、『年をとったら骨粗鬆症になるので、こればかりはあきらめるしかない』と受け止められるかもしれませんが、いくつかの対策があります。

 これまでに述べてきたことから簡単に分かることですが、閉経前に骨密度をできるだけあげておけば、45歳前後から骨密度が低下し始めてもその影響が出る年齢を先送りにすることが出来ます。つまり若い頃に、充分日光を浴びて(ビタミンDがらみ)、カルシウムなどを充分摂取して、骨に適度の加重ストレスを加える(運動すること)様な生活を続ければ、骨粗鬆症になるリスクを先延ばしに出来ます。しかし、生活上の注意点としてはそれだけでなく、食生活にもいくつかの注意点があります。それについて解説します。

 骨にかかる加重ストレスは骨芽細胞の活動を活発にします。逆に言えば運動の習慣の無い、痩せ型の人はそれだけでもリスク・ファクターになります。カルシウムを不足させる動物性たんぱく過多の食事、ビタミンDやビタミンKの不足した食事、カフェインの摂り過ぎ、過剰なアルコール摂取は、食事面における危険因子となります。ニコチンやタバコに含まれるカドミウムが骨に対して毒物として作用するので、タバコも宜しくないのです。そしてカルシウム摂取に関しては興味深い現象があります。

 常識的に考えると、カルシウム摂取量が少ない場合血管壁などに沈着するカルシウム量も減るはずですが、それが増えて動脈硬化や糖尿病、高血圧などを引き起こす要因になるというもので、カルシウム・パラドックスと呼ばれています。このメカニズムは次のように考えられています。カルシウム摂取不足により血中カルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモンの働きにより骨からカルシウムが溶出し血液中に流入します。このカルシウムが血管へ沈着(動脈石灰化)し動脈硬化を引き起こすと考えられるのです。骨粗鬆症患者では動脈石灰化症による冠状動脈疾患・心臓病が多くみられることはよく知られています。

 一方、WHOレポートでは、骨粗鬆症予防のための項目で、カルシウムの摂取量が多い国に骨折が多いという現象をカルシウム・パラドックスと呼んでいます。この現象の原因として、カルシウムの摂取量そのものよりも、カルシウムを排出させる酸性の負荷を動物性タンパク質がもたらすという悪影響のほうが強いのではないかと推論しています。つまり野菜不足の肉食です。さらに、2007年のWHOの報告書で、酸を中和するほどのアルカリ成分を摂らないとき、中和のためにカルシウムが骨から溶け出して骨密度に影響すると考えられ、それを防ぐアルカリ成分として野菜と果物が挙げられています。

 メディカル・サイエンス・インターナショナルによると、砂糖や動物性食品はカルシウムを奪う「骨泥棒」とされ、骨粗鬆症の予防のためアルカリ性食品を摂取するように言及しています。また、糖分の豊富な飲み物や肉食などで発生した血中の酸を中和するのは骨の仕事だと解説しているのです。米国栄養学会の雑誌に掲載された報告に、野菜と果物を多く食べた子供は尿中のカルシウムの排出量が少なかったというのもあります。野菜と果物の摂取量が多いほど骨密度が高いという研究結果が老若男女それぞれにあるのです。

 最後は、栄養の摂り方一で逆効果になることがあるというお話で〆にします。これも逆説的ですが、疫学的調査で牛乳を良く飲む人ほど骨粗鬆症になりやすいという傾向が認められています。急激に上がり正常範囲を越えてしまったカルシウム濃度を下げようと負のフィードバックが働き、今度は下限値を越えてしまい、骨からカルシウムを補うということが起こっているようです。カルシウムを吸収されやすい形で取りすぎると、逆効果になると言うもので、こうしたことは肝に銘じておく必要があります。牛乳の害については次の紹介記事をあげておきます( http://landarzt.blog.fc2.com/blog-entry-956.htm )。

 普段食べる食物の中にジャコやオキアミなどをうまく取り入れて食べると言うのが一番いいのでしょうか。私は安価なオキアミの干したもの(縮緬ジャコは高価すぎる!)を数種類の野菜とともに炒めて食べています。これが骨密度を高めるかどうか、後10年後に私の背中が曲がっているかどうかで判断してください。次回は骨粗鬆症の治療について述べます。