2014年7月10日木曜日

*二つの「ペスト」-その2*



江戸時代から 明治にかけてのコレラ大流行でも死者の数は10万人前後。当時のわが国の人口が4000万人前後でしょうから、ヨーロッパでのペスト流行時の死亡率を当てはめると1300万人から2700万人ほどが死んでしまうことになり、大惨事などという言葉では表せません。ヨーロッパでのペストの猛威は多くの人が「世の終わり」を本気で予感した、それほどの死者を出したペストです。ヨーロッパではペストを忌み嫌い、何か不吉なこととペストを結びつけるような心のメカニズムが深層心理の中に今も生き続けているようです。


ところでダニエル・デフォーと言う物語作家をご存知ですか。ロビンソン・クルーソーの著者です。彼はペストの流行がまだ制御できなかった時代に生きていました。そしてロンドンでの大流行を経験します。そのときの記録(これまた「ペスト」と言うタイトルです)がドキュメンタリーなのか小説なのか分からないような体裁で出版されています。こちらはカミュのように実存主義的な思想性と無関係にデフォーが見聞きしたことをベースにして記録しています。ですから、カミュの「ペスト」とは一味違う。


どちらが優れているとか、そんなことを言うつもりはありません。全く異なるスタンスで書かれたものだからです。猖獗を極めると言う表現にはむしろデフォーの「ペスト」のほうがぴったりかもしれません。夏の夜は短いのですが、その短い夜に読み始めてもあっという間に読んでしまう、そんな力を持った作品です。私の専門外である小説の話になってしまいました。鳥インフルエンザが世界的な爆発的流行をきたしたら、これらの小説に描かれたような世界が出現するかもしれません。 


全くの余談ですが、江戸の町を恐怖のどん底に突き落としたコレラが今弱毒化しているとの話があります。コレラ菌の立場からすると感染してあっという間にホストを死に至らしめたら、次のホストを探すのが一苦労、ホストが長生きするほうが次のホストに乗り移るチャンスが増えるので、弱毒株のほうが厳しくなった環境を切り抜ける可能性が高くなるということらしい。コレラ菌にとって厳しい環境とは上下水道のことです。
 
家に帰ったら手を洗いましょう。トイレを清潔な状態に保ちましょう。そういった心がけが感染症の蔓延を防ぐのです。数年前にSARSがアジアで流行した時、わが国にはついに侵入しませんでした。日本人が、海外の人たちから見ると病的に清潔好きだということが一役買っていたのではないでしょうか。何しろ、SARSが流行したアジアの某国で「日本人はトイレの後いちいち手を洗うんだって。信じられない」と嗤っていたそうです。


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