2015年1月30日金曜日

ゲテモノ食いとその結末


 『妙なものを食べない』と言う一文を『病気と治癒』の本文中に入れたのですが、その具体例を挙げます。ある友人が妙なものを食べる嗜好を持っていました。牛の肝臓を生食いするのです。近くの焼肉屋さんにほぼ毎日のように食べに行って、私の目から見るとかなり怪しげな肉を食べていました。そしてその一部はレバーに限らず生食いしていたのです。あるとき、そのいきさつは忘れましたが、彼のおなかのCTを撮影したら、肝臓に丸い影が一つ、その近くに小さな影が複数認められました。

 当然彼はびっくりしたことでしょう。消化器内科の友人のところにその写真を持っていって尋ねました。多分そのとき彼は顔面蒼白だった。消化器科では彼を慰めるつもりで、『この大きい奴を核出して、小さなのを全部ラジオ波で焼けば、半年は生きられる。気を落とさないように』と言ったのです。蒼白な顔が真っ青になったと思います。その友人の部下で出来た男がいて、もしかすると…そう疑った彼は上司から採血してある種の検査を行いました。

 寄生虫の抗体価を調べたのです。ビンゴでした。肝臓に出来た影は腫瘍ではなく、寄生虫によるものだったのです。彼が通っていた焼肉屋さんは彼の転勤の後、程なく店をたたんでしまいました。毎月彼一人で25万円ほどをその焼肉屋さんにつぎ込んでいて、その彼が行かなくなったのです。当然店のやりくりが厳しくなるはずです。一つの店の経営を左右するほど、その店に通い詰め、そこで様々な肉を生食いしていたのです。充分起こりそうなことが起こったと言うことです。

 私も昔似たような経験をしたことがありました。まだ20歳を少し越えた頃に、槍ヶ岳に登り、殺生小屋に一泊しました。前夜、北鎌尾根の独立標高点の少し前で雷のために髪の毛が立ち、びっくりして荷物をほったらかして土のあるところまで逃げ下り、そこで這い松の根っこにしがみついて荒れ狂う雷雨を眺めて過したのです。翌日は気力がなえてテント泊をやめて小屋に転がり込んだのですが、そこで小屋の主に肉を勧められました。味噌漬けの肉でそれを焼いてあります。何の肉か当ててみな、と言う訳です。

 それはツキノワグマの肉でした。そこの親父が言うには冬眠前の熊の肉は脂が乗っていてうまい。薄くスライスして生姜醤油で食べると、肉の脂肪が仄かにミルクの様に香って美味しい。そう聞いて、私の家の近くにジビエ用の食材専門店に行きました。そして熊の肉のスライスした奴を購入、その店のスタッフからも生姜醤油で生食いすると美味しいと言う話を聞いて、試してみました。とても美味しかったのです。ところがその翌々日、新聞報道で、熊肉を生食いして死亡した男性の記事が載っていました。

 それから一年ほどの間、おなかが痛くなったり、下痢をしたりすると熊肉生食いのせいではないかと思って、かなり焦りました。妙なものを食ってはいけないと言う教訓を得たのでした。


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