2015年2月5日木曜日

眠りの質


 年をとってくると、多くの人が不眠を訴えるようになります。単に眠れないと訴える人、夜トイレに起きることが多くなって、眠りが妨げられると訴える人、寝付けなくなったと言う人、寝ても3時間ほどで眼が覚めてしまうという人、その他にも様々な症状を訴えて外来にやってきます。いろいろ話を聞いていると、昼間ふらふらすることが多いようです。どうやら、眠剤を飲みすぎて、その影響が翌日になっても残っているようです。眠剤の多くは肩こりや腰痛の差異にも処方することのある、“中枢性筋弛緩薬”としての作用を有しています。

 眠気が残っていて、筋肉に力が入らない、そんな状態が翌日も続くので、転倒、骨折などが起こりやすくなります。年をとってくると、骨のカルシウム密度が低下してきますし、そのカルシウムをきっちり組織内に縛り付けているコラーゲン繊維ももろくなってきますので、とても骨折しやすくなります。このような状況で起こる骨折には、脊椎の圧迫骨折と大腿骨頚部の骨折が多く、米国などでは大腿骨骨折の治療に保険が支払われないとか、保険に加入してないから使えないなどといった問題があり、治療に難儀しているようです。

 眠りの質が悪くなると、このように眠剤を多用するようになり、転倒による骨折を引き起こす可能性が高くなります。しかし不眠はそのほかにも様々な悪影響をもたらします。まず、眠れないで布団の中で寝返りを打ったり、ぼんやりと考え事などをしていると、腎臓の働きが活発になり、おしっこが睡眠時よりもたくさん作られるようになります。したがってトイレに起きる。そうすると、それまでぼんやりしていた意識がくっきりしてきて、ますます眠れなくなります。

 また眠れないと、ストレスホルモンが睡眠時よりもたくさん分泌され、それが原因で血圧が上り、また血糖値も上ります。糖尿病や高血圧をお持ちの片にとっては、病気を悪化させる原因にもなるのです。事実良眠を得られない状態が続くと、心筋梗塞などの振血管系のトラブルが増えると言う報告もあります。睡眠はとても大事なのです。ではどうして年をとると眠りの質が悪くなるのでしょうか。

 頭の中で一日の変動(太陽の位置や明るさなど)にあわせて、いろんな物質の作られる速度が変化していきます。概日リズムなどと言いますが、睡眠と重要な関係のある物質にメラトニンと言うのがあり、夜間、睡眠に入る頃に(その少し前から)メラトニンの血中濃度が増加します。つまりメラトニンが体内で作られているのです。そのメラトニンが睡眠と深い関係にあることもわかっています。一般に若いときのほうがその時間ー濃度曲線が触れ幅が大きく、年をとるにつれてだんだんメラトニンの出が悪くなります。

 それと平行して睡眠の質が悪くなってくるので、その点に注目してメラトニンの誘導体のような物質が最近眠剤として用いられるようになりました。しかしそれで万事OKという訳ではありません。赤ん坊の肌をほっぺたなどを触ってみると、我々高齢者の肌とは弾力が違います。これは全身、どこでもそうです。首の回りも年とともに、赤ん坊のようなすばらしい弾力性が失われていきます。その弾力性の乏しい首周りに脂肪がつくと、特に仰向けに寝ているときにその脂肪の重みで気道が圧迫されて呼吸がしにくいようになってきます。

 ひどくなると、睡眠時無呼吸症候群といわれるような状態になっていきます。睡眠中に気道が閉塞して呼吸が止まる。無意識の息こらえ状態です。それが一晩に何十回と無く繰り返されます。そのストレスが原因で、高血圧、糖尿病はどんどん悪化していくのです。また、このために日中いきなり爆睡と言うことが頻繁に見られるようになります。生活の質が低下してくるのです。ご自宅では、配偶者の方から一定の間隔でいびきが聞こえなくなる、と言うことを聞くこともあります。

 睡眠時無呼吸症候群の治療は、簡単な装具を装着して眠ると言うことですが、そのためにはきちんとその診断をしたうえで無いと、当然のことですが、保険が適応されなくなるのです。現在私どもの病院に数名の方がその治療のために装具をつけて暮らしていますが、大人の3割程度が肥満とすれば、潜在的にはその数がずっと多いと思います。この病気になると、日中と頃構わず睡魔が襲ってきますので、自動車の運転などが危険になります。

 この4月から、当院で睡眠時無呼吸の診断を行う予定です。目の前でちょっと眠ってくださいと言うわけには行かない(私たちの観察するところでいきなり眠ると言う特技の持ち主はかなりまれだと思います)ので、一泊もしくは2泊の入院と言うことになりますが、その入院で睡眠中の諸データを解析して、睡眠時無呼吸症候群の診断を得たら、治療開始と言う手順になります。治療は、鼻マスクのようなものを装着して眠ると言うもので、そのマスクは機械と接続されています。私の友人はそれをつけてから、昼間いきなり睡魔に襲われることがなくなったと言っていました。

 最近太った、最近いびきがうるさくなった、最近昼間眠くなる、そんな自覚をお持ちの方は四月以降に気軽に当院を受診してください。もしこの病気でないことが確認できたら、心配事が一つ減ることになります。もしこの病気だと判明すれば、将来高い確率で起こす居眠り運転の事故を未然に防げることになります。いずれにしても受けておいて損は無い、その様な検査です。

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