2015年5月22日金曜日

野菜を食べよう

 熱力学と言う学問の分野があります。私が昔大学の一年生だった頃(私は穀潰しで二つの大学を卒業したのですが、この話は一つ目の大学でのことです)、履修単位のうち、英語のテキストにC.P.Snowという人の『二つの文化』と訳するべき英語のテキストを読むのがありました。このC.P.Snowという人は英国政府の、わが国の言葉で言えば、文部大臣を歴任した人で、自然科学関係の仕事をしてきた人です。そのテキストの中に今でも覚えている(もちろん日本語で)フレーズがありました。誰かがオクスフォード大学の構内で遠くにいる誰かを指差しながら、『彼がオクスフォードが誇る秀才だ』と発言します。そしてその秀才の卒論は古代ギリシャの悲劇詩人の作品に関係したことでした。Snowさんは言います。『ここに現代英国の悲劇がある』。

 英国で高等教育を納めた人にシェークスピアについて何かしゃべらせようとすると、滔滔と自説を開陳するのに、熱力学の第二法則について尋ねても、まともな返事が帰ってくることは無い、と後に続きます。当時私は熱力学の第二法則、またの名をエントロピー増大の法則、について確信を持って説明することが出来ませんでしたので、「そう仰っても…」とやや恥じ入りながら、口ごもることしか出来ませんでした。ガソリンエンジンを魔法瓶のように外と熱の出入りの無い素材で作り、同じく熱を通さないピストンで内部の空気を圧縮していくと考えましょう。現実にはありえない条件で、頭の中で実験を進めることを『思考実験』と言います。

 そうした熱的に隔離された状態で空気を圧縮したり、逆に空気の体積を大きくすることで内部の温度が変わってきますが、その内部の気圧変化を非常にゆっくり起こるようにすると外から加える力(そしてその力によって行った仕事)が、完全に可逆的にはなりません。その非可逆的な部分がエントロピーと言われる、エネルギーのゴミ捨て場のようなものになります。100℃の水100mlと0度の水100mlを内部が仕切られた水槽の各々の区画に注ぎ、その後で仕切りをそっとどかすと、その水槽が周囲から熱的に隔離されていたら、時間とともにその水槽内部の水の温度は50度に近づいていきます。

 100度と0度の二つに分かれているときにはその熱の差を利用して何らかの仕事をさせることが出来るのですが、50度200mlになってしまうと、全体としてのエネルギー量は同じなのに、もう何の仕事も出来ません。もちろん、その水槽の外部にある0度の環境に対しては仕事をすることが出来るのですが、それはまた別の問題になります。熱的に平衡に達してしまったら、もう仕事をすることが出来ません。一つの系がだんだん熱平衡に達していく過程を『熱力学の第二法則』または『エントロピー増大の法則』と言います。生命体はそのエントロピーが熱平衡に達したときに完全に死亡するわけです。

 ここで言う死亡とは、どんなことをしてもその『元生命体』から生命の復元をすることが出来ない状態になることです。つまり、どこかに生きている細胞などが残っていてその細胞を培養してもう一度生命体を作り出す、と言うことが不可能になった状態です。70Lほどの水を先ほどのように100℃35Lと0℃35Lから作るとすると、それが熱平衡に限りなく到達するのに必要な時間は数時間、せいぜい数日間であり、80~90年の時間をかけてやっと熱平衡に達するということはありません。

 では体重が70kgの人間はなぜ単純な水の熱平衡に要する時間よりもはるかに長い時間を生きるのでしょうか。多くの人がその疑問に答えあぐねていましたが、『ネガ・エントロピーを食べる』と言った人がいます。つまり外部から負のエントロピーをもった食物を食べて、熱平衡に達しようとする自分自身を健全な状態に引き戻していると言うのです。その話を聞いたときに、うまいことを言うなあと思いました。胚芽から芽を地面の外に出して、太陽の光を浴びながら光合成をしてエントロピーのとても低い状態の栄養素を溜め込む。その低エントロピーの栄養素を食べて、私たちは自分のエントロピー増大を食い止めている…

 大地の恵みをたくさん食べましょう。それはきっと私たちの体の、増大したエントロピーを下げてくれるはずです。余談ですが、後にこのエントロピーと言う概念は様々な分野で遣われるようになりましたので、現代の文科系出身者で『エントロピー増大の法則』と聞いて、何のこと?とレスを返す人は少数派です。しかしそれが19世紀の広範に発達した熱力学に由来することを知っている人は、これもまた少数派です。

2015年5月12日火曜日

カマンベールチーズは認知症を予防する

 ネットで遊んでいて、チーズに関する記事を見つけました。面白かったので、コピーしてご紹介しましょう。以下がそのコピーです。

 『キリン株式会社の基盤技術研究所(所長 近藤恵二)は、小岩井乳業株式会社(社長 堀口英樹)、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科と共同で、カマンベールチーズの摂取がアルツハイマー病への予防効果があることを確認し、さらに、その中に含まれる有効成分として、オレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールを発見しました。この研究成果は米国科学誌「PLOS ONE(プロスワン)」に2報に渡る論文として掲載されます。

日本国内では急速な高齢者の増加に伴い、認知症は社会的な関心事となっています。現在、日本で460万人、世界で2400万人近くが認知症を患っているとされています。しかし、アルツハイマー病に代表される認知症には十分な治療方法が開発されておらず、日々の生活を通じて予防する取り組みが注目を集めています。食による健康の増進に取り組むキリングループでは、近年急速に解明が進んでいる脳科学の領域の研究を進めています。そして今回、カマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への予防効果のメカニズムを初めて明らかにしました。

チーズなどの発酵乳製品を摂取することにより老後の認知機能低下が予防されることは、疫学の分野ですでに報告されていますが、認知症への予防効果のメカニズムや有効成分は分かっていませんでした。今回の研究ではこの点に着目して、市販のカマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への作用を検証しました。その結果、アルツハイマー病モデルマウスにカマンベールチーズから調製した餌を摂取させると、脳内のアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの沈着が有意に抑制され、脳内の炎症状態が緩和されることが確認されました。


さらに今回、有効成分としてカマンベールチーズにオレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールが含まれていることを発見しました。オレイン酸アミドは、脳内のアミロイドβなどの老廃物を除去する役割を担うミクログリアと呼ばれる細胞を活性化しながら抗炎症活性を示す成分です。また、デヒドロエルゴステロールは、抗炎症活性を示す成分です。これらの成分は、乳の微生物による発酵過程で生成されたと考察しています。』

 以上がプレス・リリースのコピー(一部端折りました)です。チーズは発酵食品の一つで、様々な種類があります。カマンベールチーズはフランス・ノルマンディ地方で誕生したものと聞いていますが、表面を白カビが覆っていて、そのカビが乳成分のあるものを分解して、独特の風味を生み出しているようです。カビの種類によって様々なチーズが作られます。多種類のチーズの中でカマンベールは比較的食べやすいほうですが、中にはプロセスチーズ以外は駄目という方もあると思います。

 わが国では発酵食品というと、醤油、味噌、納豆から始まり、様々ななれ寿司、くさやの干物など多岐に亘りますし、お酒も発酵食品の一種です。ですから、発酵食品を受け入れる素地は出来上がっていると思います。それに、牛乳を直接飲むと、其処に含まれている乳糖による糖毒性が近年明らかになってきているようで、酵母によって乳糖が乳酸まで分解されたほうが、健康にはよさそうです。幸い、このところカマンベールチーズをはじめとした各種チーズの値段もこなれてきていますので、晩酌の際につまむ小皿の一品にカマンベールチーズを加えてみたらどうでしょうか。

2015年4月28日火曜日

「高価な」プラセボのほうが効果的―パーキンソン病患者の症状改善に違い

 とても物議をかもしそうな研究が医学雑誌に掲載されました。プラセボ効果ってご存知ですよね。そう、偽の薬を投与した場合、本物の薬ほど効果的ではないものの、投与しなかった場合よりも明らかに症状改善に繋がっている効果のことです。この効果は新薬を開発する際の効果判定にも使われます。新薬とプラセボ群で効果のほどを比較して、統計学的な差がなければ効果はないとするのです。さて、以下がその研究の要約です。一部省略してそのコピーをご紹介します。

 パーキンソン病患者を対象とした小規模研究で、薬剤価格によってプラセボ(偽薬)効果に違いがあることが示され、「Neurology」オンライン版に128日報告された。この研究では、12人の患者に対してプラセボ2薬を1剤ずつ、時間をおいて投与した。どちらの注射薬も実際には生理食塩水だったが、患者は一方の薬剤は1回分1,500ドル(約176,000円)の新薬であり、もう一方は1回分100ドル(約12,000円)だと告げられた。医師は患者に、どちらの薬剤も同様の効果があると断言していた。

 その結果、高価な薬剤を投与されていると告げられた場合、投与後4時間にわたって振戦、筋固縮などの症状の改善が大きくなり、MRIでも患者の脳活動に違いがみられた。これらのプラセボではパーキンソン病の標準薬剤であるレボドパほどの効果は得られなかったものの、高価なプラセボの効果は、レボドパと安価なプラセボの中間に位置した。さらに、高価なプラセボを投与した時の患者の脳活性はレボドパと同様であった。

 研究を主導した米シンシナティ大学医学部のAlberto Espay氏によると、パーキンソン病の場合、プラセボ効果は脳が化学物質ドパミンを放出することによって生じると考えられるという。パーキンソン病はドパミンを産生する脳細胞の機能不全によって生じるが、一方で脳は、「治療によって症状から解放されるかも」といった報酬を期待したとき、ドパミンを大量生産する。今回の知見は「期待」が重要な役割を果たすことを示すものだと、同氏は話す。

 この症状改善が長期的に続くものかは本研究では明らかになっていないが、患者が「薬」を信じているかぎり、効果は保たれるとEspay氏は考えている。同氏はまた、単に「これから処方する薬は高価だ」と医師が告げるだけでも、パーキンソン病や他の疾患患者の治療において、プラセボ効果がうまく作用する可能性があるとしている。

 医療機関で投薬を受けている方たちへ。私たちは決して薬の代わりに安価な生理食塩水を点滴内に加えることなどしていません。大きな病院では臨床試験などを行うことがあります。その際は『この研究はある薬の効果を見るための臨床試験である。臨床試験だから当の薬剤とプラセボのどちらかを投与する。この薬が薬剤かプラセボかは投与するスタッフも知らされていない。結果を判定する人間もどちらが投与されたか知らされていない』ということを告げられます。その上で臨床研究に協力するかどうかが問われるのです。

 もちろんその薬剤の投与と観察のための入院期間に生じた費用は全部病院もちということも告知されます。その様な手順を踏んで臨床試験を進めていきますので、赤字続きの病院が経営状況を好転するためにプラセボを投与するということはありません。しかも、ある薬を投与したら、その分を納入業者から仕入れなければなりません。その使用と購入が一致しないと簡単な調査でばれてしまうので、決してプラセボを投与することなど出来ないのです。

 医学論文の中には時としてここで例示したように人の悪いものがあります。何かを知りたい場合、時には『騙す』ことが必要になる場合もあります。プラセボの効果とそのからくりを知りたい場合など、ここに示したように、薬剤の投与を受ける人を『騙し』ています。人間の残忍な本性を探る実験として有名なものがありました。だいぶ昔の話ですが、『懲罰が学習効果に与える影響を調べる』と称して、被験者には『苦痛を与える』方を受け持ってもらい、モニター用の窓から別の被験者が苦痛に身もだえする様子が見えるようにする、という実験です。

 この実験では実は苦痛にもだえているのは演劇か何かを学んでいる役者さんで、苦痛のまねをしていたのです。そして被験者は苦痛を与えるほうで、罰則無しの場合、どんどん拷問の領域まで痛みを加えていくという仮説を検証するための実験でした。怪しげな(一見怪しげでないから困るのですが)実験への強力は避けたほうが良いかもしれませんね。

2015年4月21日火曜日

II型糖尿病と関連する癌は?

 糖尿病と言うと、現代日本でもっともポピュラーで厄介な病気の一つです。私たちは有史以前からの蓄積された種の記憶(があるとすればですが)のために、どうしても栄養源になるものを食べたいと言う欲求が慢性的に存在します。そしてあまり自制心のない人は必要量を大きく超えて食べてしまうのです。たくさん食べても糖尿病にならない人も居ますし、そもそも大喰をしていても太らない人もいます。TVで知名度の高いギャル曾根はその代表でしょう。

 たくさん食べたい、もっとたくさん食べたい、そういう欲求の強い方にとって、ギャル曾根のような人物はとてもうらやむべき人かもしれません。それほど極端でなくても、たくさん食べて太っていても糖尿病にならない人も居ます。体質と言うこともその理由のひとつに挙げられるかもしれません。しかしもしかすると食べ方などにもヒントがあるかもしれません。でんぷんをあまり含まない野菜を最初にたくさん食べるようにしている人は概して糖尿病になりにくいようです。

 その糖尿病ですが、何らかの原因でインスリンを作る細胞が破壊されて、そのことが原因で糖尿病を発症するI型糖尿病、過食と運動不足が原因で体細胞がインスリンに反応しにくくなり、インスリンを作る細胞も疲れきってしまうII型糖尿病の二つに分けることが出来ます。私たちがよく目にするWEB上の医学雑誌の中に、II型糖尿病と癌の関連についての報告の簡単な紹介が出ていました。糖毒性は免疫系などにも影響してきますので、医療従事者が、糖尿病患者は癌に罹りやすいのではないかと考えても不思議ではありません。

 その雑誌の記事の一部をご紹介しましょう。以下がそのコピーです。『ギリシャ・ヨアニナ大学医学部のKonstantinos K Tsilidis氏らは、2型糖尿病とがんの関連について、メタ解析/システマティックレビューを包括的レビュー(umbrella review)するという手法で大規模な検討を行った。その結果、大半の試験で関連性が有意であると強く主張していたが、バイアスの可能性がなく強固なエビデンスで関連性が支持されるのは、乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発症リスクにおいてのみと少数であったことを報告した。BMJ誌オンライン版201512日号掲載の報告より。』

 Ⅱ型糖尿病は高血圧よりも自分自身の生活態度の反映と言う側面が強く出ます。自分で病気になって治療を求めにやってくる。多少好転しても生活態度を改めず、一見平衡状態で病の進展がないように見えるが実は水面下でじりじりと進行している。そしてある日からだの一部を切り落とす羽目になったけど、それだけにとどまらなかった…糖尿病とはそんな病気です。その糖尿病はそれ単独でも厄介なのですが、その上に乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発生率が高くなる、ついでに申し添えておけば、糖尿病では傷の直りがとても悪くなります。ですから手術のリスクも当然かなり高くなるのです。

 糖尿病はとても厄介な病気です。例えば数年ぶりに再会した友と酒を酌み交わす、そのとき多少羽目をはずしても大勢に影響はない、と多くの人が考えます。実際影響は微弱です。しかしそこで羽目をはずす人はほかの局面でも羽目をはずすことが多いのです。そして病は進んでいく…水面下で進む病の進行を想像してください。やがて眼が見えなくなる、足が腐ってくる、腎不全になって透析の必要が生じる。全身の血管がぼろぼろになり、あちこちの臓器が突如痛み始める(血栓症)、そんな風に病状が進んでいきます。

 栄養指導を行う人が鬼のように見えるかもしれません。無理難題を言っているように思えるかもしれません。しかし、ある時期に食べ過ぎてインスリン分泌細胞が痛んで、体中の細胞のインスリン感受性が低下してしまったら、ツケを払うしかないのです。そのツケの取立ては容赦ない。そんな形でツケを払うのがイヤなら、最初から妙な形で体に悪いツケを溜め込まないこと。そのあたりの事情はサラ金地獄と似ているかもしれませんね。お食事は計画的に!

2015年4月6日月曜日

禁煙の勧め

 私が20前後の頃、本邦での喫煙率は60%を超えていたと記憶しています。先日、禁煙について資料に当たっていたら、今の喫煙率は21.6%だそうです。タバコを習慣的に吸う人は5人に1人といったところまで、喫煙者数が減ってきています。何でもそうですが、ある集団の構成員数が減ると、その集団は先鋭化する。喫煙者の集団の構成員数が減ったからといって、どう先鋭化するのかといわれても困るのですが、慢性閉塞性肺疾患の患者数は増加しているようです。

 この厄介な病気はCOPDとの略称が一般的になってきていて、多くの人がCOPDといったほうが話が通じやすいという状態になっているかもしれません。原因はタバコ、そのほかにも上気道をいたぶる様な刺激性のある微細な粉末や気体を慢性的に吸入することです。一般に気道は口や鼻から始まって、のどの奥、声帯、そして気管へと続きます。気管から気管支、細気管支へと枝分かれしていき、最後には肺胞に至ります。

その肺胞までの気道系は繊毛上皮に覆われていますが、その上皮細胞の一部の場所が杯細胞という別の細胞に入れ替わっています。杯細胞からは粘り気の強い液が分泌され、繊毛上皮の繊毛によってそれが全面に広げられます。そしてその上皮に備え付けの動くひげで上へ上へと押し上げられていき、声帯の直下まで来ると、喉がくすぐったくなって咳き込む。そのねばねばした液が痰として喀出されるという段取りになっております。気道を通った空気の中に含まれる様々な好ましくない物質がそのねばねばに絡めとられて、痰となって体外に排出されるのです。

長年タバコを吸っていると、先に述べた繊毛上皮が部分的に麻痺していきます。タバコの煙が一番強く当たるところから順を追って麻痺していくのですが、そのことで杯細胞で分泌された液体が引っかかってしまいます。しかし末梢のほうからは次から次へと分泌物が上ってきます。ある箇所でストップしてしまうと、その部分が詰まってしまいます。肺のあちこちで小さな部分が詰まり、その割合がある程度大きくなると息苦しさを覚えるようになります。

繊毛上皮は本来の仕事を果たさなくなるだけでなく、細胞そのものが扁平上皮へと変化してしまいます。これを扁平上皮化生といいますが、これは一種の腫瘍ですね。ある人は、細気管支の閉塞が進んでいき、日常動作に制限が加わるようになります。そして在宅で酸素を吸っていても息苦しさが直らなくなっていく。この状態をCOPDといいます。ある人は扁平上皮化生から扁平上皮癌へと進んでいきます。COPDの患者さんは肺がんになった人を羨ましく思うといいます。それほど苦しいのです。

2015年3月31日火曜日

居眠り運転と睡眠時無呼吸症候群

 今まで居眠り運転をしたことはありませんか?知り合いで、バイク運転中に居眠りしていたなどと言うやつがいますが、怖いですね。私も一度居眠り運転して、後ろから来るトラックにクラクションを鳴らされ、パッシングされてやっと眼が覚めたという経験があります。昼間眠いのは夜間の睡眠中に無呼吸となり、良眠が得られなくなることが原因だとされています。これを睡眠時無呼吸症候群といい、SASと略記します。SASと言うと英国陸軍の特殊部隊を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、ここでは睡眠時無呼吸の略称として用いることにします。

 多くの人が20歳前後と比べると体重増加を経験しています。そして、こいつは太っているな、と思える人はよく居眠りをする。だから肥満とSASは結び付けられますが、解剖学的にも肥満して口から喉の辺りにある脂肪の量が増えるとその脂肪の重量のために気道が(特に仰向けに寝たときに)狭くなり、睡眠中にその気道がふさがれます。ある程度の時間が経つと血液中の二酸化炭素の量が増えますので、呼吸に対する強いドライブがかかり、深い深呼吸のような呼吸が再開し、しばらく正常な呼吸を繰り返します。そしてしばらくすると再び呼吸が止まってしまいます。

 SASの原因は肥満のほかに、下顎が小さいとか、扁桃肥大などで生じる気道の狭窄などがあります。対処法としてはCPAP(気道に陽圧をかける)療法、スリープスプリント(マウスピースを用いて下顎を前進させる)、そして口蓋垂、郊外扁桃、軟口蓋の一部を切除して気道を広げると言う外科的な療法があります。CPAP療法もスリープスプリント装着も鼻や口腔内に妙なものをくっつけるので、それこそ睡眠障害を引き起こしそうなものですが、CPAP療法によって昼間の眠気が完全に取れたという例を知っています。

 SASの治療は保険適応になっているので、SASの診断が確定したら、一ヶ月に一度医師の診察を受けながらCPAPの装置をレンタルして使うと言うことになります。診断が確定して、治療を決めたら、業者さんが機器をご自宅に持参してくれます。3割負担の方で月々5000円前後だったように記憶しています。その装置ですが、旅行などにも持参することが前提となっていますので、どの会社から出ているものも基本的に小型で携帯が負担になるというほどのものではありません。

 診断はポリソムノグラフと言う機械を使って行います。機械を貸し出すか、入院していただき、夜間睡眠中のデータを解析することになります。当院でも4月からSASの診断と治療に本格的に取り組んでいく予定です。SASは睡眠中に本人の自覚のないままストレスホルモンが上昇することから糖尿病、高血圧、循環器系の疾患を悪化させるとの報告があり、健康に齢を重ねたい方にとって、SASは大敵です。多少とも肥満気味の方はぜひとも睡眠中の呼吸を調べましょう。自宅での検査が鬱陶しいという方は12泊の入院で診断が可能です。もしSASと診断されたらCPAP療法を受けてください。

2015年3月20日金曜日

糖質制限ダイエットの顛末


 昨年の10月に糖質制限ダイエットについて述べました。自分がこのダイエット方法を食事にとりいれたのが7月末あたりですから、半年以上が経過しています。その結果、体重が6㎏ほど減りました。年末に血液検査の異常がどのようになっているのか知りたいと思い、検査してみました。肝機能はγ-GTPが長い事3ケタを記録し続け、悩みの種でした。「これはきっと遺伝的な体質に違いない」そのように結論付けたいと思ったことも幾度となくありました。

 たとえば何らかの遺伝病に伴うI型糖尿病などはもちろんインスリンを作る細胞が壊滅する事によって起こるもので、食事療法をいくら頑張っても糖尿病の病態が根本的に好転することはありません。しかし、食事と飲酒に伴うγ-GTP値の上昇は遺伝子の状態によって決定されたものではないのです。もちろん同じような生活習慣を持っている人で、かなり早期に糖尿病にまで進んだ人もいますし、肝炎になってしまった人もいます。一方で、全く検査結果に暴飲暴食の痕跡を残さない人もいるのです。そのあたりは、個人差と言うか、個人の遺伝情報によって影響を受ける範囲と言っていいでしょう。

 私のしつこい脂肪肝の兆候は、この糖質制限ダイエットで簡単に消えてしまいました。現在まで、私は一日130g程度の炭水化物をとるというマイルドな糖質制限食を行っています。そして週2(月曜日と木曜日)は夕食を抜いています。最初は月、木の両日に飲酒で空腹を紛らわせようとしていたのですが、どうもこれはよろしくないようで、プチ断食の日は観測小屋の内装にあてることにしたのです。それほどの重労働をするわけではないので、空腹のために倒れるなどと言う事はなさそうだし、気が紛れて疲労するので下宿に帰ったら熟睡が期待できると言う訳です。

 その努力の甲斐あって、体重もかなり順調に低下傾向を示していたのですが、検査結果を見てびっくりしました。肝機能がすべて正常、それも正常上限のあたりではなく、ほとんど真ん中あたりの優等生状態です。しかも血糖値の平均を表しているA1Cもずいぶん低い値になっています。このダイエット方法のいいところは、あまりうるさいことを要求しない点です。私は黒糖飴を一週間に一袋弱消費しています。その程度は大丈夫なようです。ただし、肉や魚の消費量がかなり増えたために、クレアチニン値が上昇し、BUNが正常上限辺りまで上がってしまいました。これは当然予想していたことで、自分的には問題ありません。

 このダイエットによって私の寿命が延びるかどうか、それはわかりません。私と全く遺伝的に等価な人間を見つけ出して、通常の食事を食べさせることで両者の死ぬ時の年齢を比較する、そういったサンプル(つまり一卵性双生児)を10組とかで調べれば、糖質制限食が長期的に体を健康に保つ(または健康を害する)ことが証明されるのですが、かなり困難です。だとするとランダムに10000人ずつのグループの一方に糖質制限食、もう一方に普通食を食べさせて比較することになりますが、本邦ではそのような研究があまり尊ばれていないようで、そうした研究の存在を知りません。

 しかし、今脂肪肝から肝炎に進行する瀬戸際の人とか、糖尿病がもうじき始まるかもしれない人(つまり食後高血糖がみられるがA1Cはまだ正常範囲と言う人)では、このダイエット法は効果があります。野菜(特に葉物)や魚、肉に関する制限が無いので、決して辛くはありません。週2回のプチ断食も慣れてしまえば大丈夫なのですが、これは一家団欒の食事の中で自分だけ食べないというのでは辛いと思いますので、これだけは環境が許すのでなければお勧めしません。今からでも検査結果を正常値に戻すことは可能です。頑張ってみませんか?