2015年6月26日金曜日

身長の日内変動と脊椎の牽引

 身長の日内変動について検索をかけるとたくさんの結果が示されます。そしてどの記事を見てもほぼ共通に、寝起きのときの身長は就寝前の身長より高いとされています。つまり寝ているときに身長が伸び、起きているときに縮むということになります。そしてその原因は重力。重力が脊椎に加わって、椎間板の一つ一つが平べったく変形することだと言われています。もしかすると質関節や股関節の軟骨も少し変形するのかもしれませんが、ある程度広い範囲を動く関節周りの軟骨の変形は考え難いので、脊椎部分の軟骨の変形が一番の原因だろうと思います。

 軟骨はそれなりの可塑性がありますので、加重が取れた状態が6時間も続けば平べったくなったものが再び丸みを帯びた形に戻ることは充分ありえます。しかし本当にそうだろうか、疑り深い人はそんな風に感じるだろうと思いますし、そのような疑いを持つのはとても健全なことです。ではその疑いを解決する手段はないか。たとえば朝と夜に椎間板に焦点を当ててCT撮影などの画像で比較すると言う方法があります。CT撮影そのものは、現在のわが国の保健医療では数千円で収まりますので、費用の面からはこの仮説の検証にそれほどのコストはかかりません。

 しかし、CT撮影の際の被爆はどうしても避けがたいものです。ただでさえわが国は被爆大国、それも医療被曝大国です。欧米などの先進諸国で、わが国のように気軽にCT撮影を行う国はありません。CTにかかる費用がかさむと言う事情もありますが、被爆の問題が大きいのです。カナダで留学生活を送っていた頃、私の娘が旅行中に突然熱を出し、嘔吐しました。近くの診療所に担ぎ込んだのですが、そこの医師が、聴診などの観察に加えて血液検査を実行し、放射線学的な検査を行うことができるけど被曝する、将来この検査による悪性腫瘍の発生率が1%ほど上昇するがどうする、と言うようなことを親である私に尋ねました。

 この1%はあまり神経質になる必要の無い被爆量ですが、CT撮影の場合、それなりに神経質になったほうが良い被爆量です。ですから、単純に興味に駆られて測定する種類の検査ではありません。では他に何か良い方法は無いか。日中の立位での活動で重力の影響を受けて椎間板が扁平になっているのであれば、椎体の牽引で身長が多少伸びると言う現象が確認できかも知れません。そこで私自身を被験者として選び、40kgの牽引を15(15分間引っ張り続けるのではありません)行ってその前後での身長の変化を記録しました。

 若い頃と比べると2.5cmほど縮んで172.5cmだった私の身長が牽引によって173cmになっていました。つまり15分ほど重力の影響を除去して逆に椎体を引っ張ってやることによって体を引き伸ばすことが出来ました。これを例えば10年ほど若い頃から続けていたら、もしかすると2.5cmの身長の縮みは見られなかったかも知れません。でも、まことに残念なことですが足を引っ張っても足が長くなることは無いと思います。ここで述べた身長の変化が椎間板軟骨の弾力性によるものなので、可動範囲の大きな股関節や膝関節の部分で軟骨が膨らんだり縮んだりすることは考え難いのです。

2015年6月16日火曜日

瀉血:大昔の西洋医学

 瀉血と言う「治療法」が昔行われていました。熱に浮かされている人の静脈を切り開いて、体内をめぐる血液の一部を抜き取ると言うものです。なぜそれが有効な治療と考えられたのか、今日の知見からすると理解に苦しみますが、ヒポクラテスの時代には人間の生命は体液によって支配されていると考えられており、複数の体液が体の中でせめぎ会っていると考えられていました。当時、もちろん医業というのがあり、病を得た人に対して医師は何らかの説明責任を課せられたでしょうから、何か屁理屈を考えつかなければならないと言う事情があったでしょう。

 確かに悪性腫瘍の終末期には、胆汁様の吐物が観察されますので、それと体液説を結びつけて、悪い血を出してしまうと言う発想がでてきてもおかしくはありません。ついでに言うと、この「悪液質」と言う言葉は今日まで医学用語として生き残っています。その瀉血ですが、1618世紀の欧米ではかなり一般的で、多くの人が血を抜かれて、その大半が死亡し、一部は生き残ったようです。合衆国初代大統領のワシントンも瀉血を受けて死亡しました。

 歴史上のお話としては、チフスの流行の際に瀉血を施したことがきっかけで、当時の医療従事者が瀉血から離れていったとされています。チフスは感染初期から衰弱が顕著に認められる感染症で、瀉血によってかなり直接的に死亡するので、瀉血が原因で死亡すると言う因果関係の把握が容易だったようです。血液中のヘモグロビンが酸素を体の隅々にまで運ぶなどと言うことは想像されることすら無く(当時は酸素と言う物質についても知識が無かった)、性格などを支配する要素だと考えられていましたし、悪い病がその血液に居ついてしまうので、瀉血によって是正するのだと考えたのでしょう。

 それとほぼ同じような感覚で、輸血がなされていたのはご存知でしょうか。ルイ14世の主治医だったドニという人が、パリの乱暴者に子羊の血液を輸血することで、子羊のような温和な性格に作り変えると言うことを試みています。まず最初の輸血の後、その被験者は居酒屋に繰り出して大酒を飲んだと言うことです。しばらくしてもう一度輸血を受けて、そのときには死にかけたのですが、復活して、その後おとなしくなったそうです。当時の輸血、瀉血ともに、科学からは程遠い方法論で、人の健康に迫ろうとしていた時代の話です。

 現在、瀉血という方法が採択されることはありません。しかし、ある種の病態では交換輸血を行います。もちろん患者さんをめぐっている血液を全部抜き取ってから新たに同量を輸血することは出来ませんので、何度も輸血と脱血を繰り返して、ほぼ血液を入れ替えるということになりますが、もちろん血液に宿る中世的な何かを捨て去るためではありません。異なる動物の血液を輸血すると言うことも通常ありえないことですが、これについては面白いことを聞いたことがあります。

 第二次大戦の頃、わが日本軍が中国やビルマなどに進出し、戦闘に従事していたのですが、そのときの負傷兵に対して輸血が必要だが、血液製剤が無い。そんな状況に直面した軍医さんたちが苦肉の策として、致死的な抗原性の無い牛の血漿を輸血したと言う話を聞いたことがあります。その人たちの一部は、その話を聞いた時点では生存しており、その人たちが固い絆で結ばれていると言うことでした。その絆と言うのは、牛の血漿を輸血されたために、体内に妙な抗体がいろいろと出来ていて、ABOの方を合わせても輸血できないらしかったのです。

 だから、誰かが手術をするとなると、同じ治療を昔受けた「同志」が病院にやって来て供血者になると言うシステムが出来上がっていたと言うのです。直接当事者から話を聞いたのではありませんので真偽のほどはわかりかねますが、そのための強固なネットワークが形成されているという話です。この話はバンクーバーの医師から聞いたものです。一般に血液に絡んだ話にはいろんなものがあり、その多くは当然の事ながら、血腥いものです。薬害エイズなどもその一つだと思います。

2015年6月5日金曜日

過ぎたるは及ばざるが如し – 紅茶の飲みすぎ


 ひとは単独で生きていくことが出来ません。小野田少尉や横井兵卒のようにジャングルの中で長いこと一人で生活していた人もいるのですが、人間としての基礎ができた上で孤立したわけで、人間形成の過程には社会がちゃんとした役割を果たしていました。単独で生きていく、いろんなサバイバル技術を学んだ上で単独で生き抜くことは、もちろん、環境によっては可能です。しかし、生まれたての赤ん坊が人間として育っていくうえで、社会的なトレーニングは必須のものです。

狼に育てられて15歳頃に発見された子供がいたそうですが、ついに『人間』になることが出来ず、まるで凶暴で飼い主にもなつかない野犬のようにしばらく生きていて、短い生涯を終えたそうです。人間としての考え方やものの見方など、それにお箸やナイフ・フォークで食事を取るといった習慣などが『人間』を作っているといっていいでしょう。その『人間』ですが、千差万別。なくて七癖などといいますが、同じ境遇に置かれても、自分の人生に対する向き合い方には大きな個性の違いがあります。

私たち医療従事者から見ると、病を得た後にどう対処するか、といった観点で見た場合に、各々の人柄が見て取れます。例えば癌と診断されたときにどうするかというのがあります。私が研修医だった頃は本人に『あなたは癌です』と告げることはありませんでした。ショックが大きすぎて、自分でその事実を受け止めきれないだろうというのが当時のわが国全体の空気で、その傾向は私がカナダに留学した1980年代後半には強く残っていました。

カナダの西海岸で、肺燕麦細胞癌(とても進行が早い)に罹患した患者さんに『あなたは手術適応のない肺がんにかかっており、あと3ヶ月ほどで死ぬから遺言など考えておきなさい』と告げているのを見てびっくりしたものです。欧米の医師に言わせると、本人の人生なのだから、知るべき情報は全部伝えておかないと、それは一種の瞞着的な行為だというわけです。帰国して数年後に、地域の中核病院で働き始めたときに、そこの外科部長が全てを本人に告げるという考え方を持った人で、実際に病名告知をしていました。

病院からの帰りに自殺してしまったひとがいるという噂も聞こえてきましたが、今は病名告知、予後の告知が一般的になってきています。癌以外の病気、糖尿病だとか脂質代謝異常だとか、骨粗鬆症、変形性の関節症、そして高血圧などは昔から告知していました。肝硬変や腎不全についても告知していました。糖尿病や高血圧は実際に不都合なことが起こるのはたいてい病の最終ステージに近づいた頃ですが、変形性の関節症や骨粗鬆症による異常骨折などは不都合が起こったらすぐさまそれと分かります。痛いのです。

その痛みにどう向き合うか。前置きが長くなりましたが、今回のテーマはこれです。膝や股関節には強い力がかかります。脊椎にも強い力がかかります。ですから、そのあたりの病気はその荷重がより大きくなるような条件(=肥満)があると、症状の進行が早い。そして痛みを口実に動くことをやめると筋肉が萎縮して消費カロリーが減ることで、より太りやすくなります。そうすると家屋の中でどうしても移動しなくてはならないような場面に出会うたびに情け容赦なく骨の変形などが進行します。

変形性質関節症では関節を動かしておくほうがいいのです。ある患者さんは自分の趣味を貫くために、ほとんど関節として機能しなくなった膝に痛み止めを打ちながら歩き回っています。長い下り坂を下りるのが辛いとこぼしていますが、それでも元気に活動しています。一方、関節変形の程度からすればそれよりはるかに軽症で状態のいい人が、ほとんどこもりっきりになり、生活上の様々なことを他者に依存するということが見られます。どんどん生活が縮小していき、人生の最終楽章が全く盛り上がりに欠けるものになっているようにみえてしまいます。

私の仕事の中心は痛みをある程度軽くし、病状の進行にブレーキをかけることです。胸椎下部の圧迫骨折などで急性期の痛みを乗り切るためには23週間入院していただいて、その間に痛みを軽減させるような処置をします。そして第2、第3の圧迫骨折がそれに続いて起きないように骨粗鬆症の治療を開始する、そして腰椎のすべり症の発生を食い止めるなどの手立てを講じる、そうしたことがこの病院に勤務する外科系医師である私の仕事であろうと思っています。

人生の広がりは『自分のことをちゃんと自分で始末する』ということと深く関連しています。そして生きていくうえでの喜びは、誰かに何かをして上げられることだと思うのです。どこかが痛いといって引きこもって、人に何かをしてもらうことを期待しながら、愚痴をこぼし、『死にたい』などと言っていると、友人たちの足も遠のくでしょう。すると自分の人生がさびしいものになってしまうのです。出来るだけ、そうならないようにがんばってください。お手伝いできるところはします。


2015年5月22日金曜日

野菜を食べよう

 熱力学と言う学問の分野があります。私が昔大学の一年生だった頃(私は穀潰しで二つの大学を卒業したのですが、この話は一つ目の大学でのことです)、履修単位のうち、英語のテキストにC.P.Snowという人の『二つの文化』と訳するべき英語のテキストを読むのがありました。このC.P.Snowという人は英国政府の、わが国の言葉で言えば、文部大臣を歴任した人で、自然科学関係の仕事をしてきた人です。そのテキストの中に今でも覚えている(もちろん日本語で)フレーズがありました。誰かがオクスフォード大学の構内で遠くにいる誰かを指差しながら、『彼がオクスフォードが誇る秀才だ』と発言します。そしてその秀才の卒論は古代ギリシャの悲劇詩人の作品に関係したことでした。Snowさんは言います。『ここに現代英国の悲劇がある』。

 英国で高等教育を納めた人にシェークスピアについて何かしゃべらせようとすると、滔滔と自説を開陳するのに、熱力学の第二法則について尋ねても、まともな返事が帰ってくることは無い、と後に続きます。当時私は熱力学の第二法則、またの名をエントロピー増大の法則、について確信を持って説明することが出来ませんでしたので、「そう仰っても…」とやや恥じ入りながら、口ごもることしか出来ませんでした。ガソリンエンジンを魔法瓶のように外と熱の出入りの無い素材で作り、同じく熱を通さないピストンで内部の空気を圧縮していくと考えましょう。現実にはありえない条件で、頭の中で実験を進めることを『思考実験』と言います。

 そうした熱的に隔離された状態で空気を圧縮したり、逆に空気の体積を大きくすることで内部の温度が変わってきますが、その内部の気圧変化を非常にゆっくり起こるようにすると外から加える力(そしてその力によって行った仕事)が、完全に可逆的にはなりません。その非可逆的な部分がエントロピーと言われる、エネルギーのゴミ捨て場のようなものになります。100℃の水100mlと0度の水100mlを内部が仕切られた水槽の各々の区画に注ぎ、その後で仕切りをそっとどかすと、その水槽が周囲から熱的に隔離されていたら、時間とともにその水槽内部の水の温度は50度に近づいていきます。

 100度と0度の二つに分かれているときにはその熱の差を利用して何らかの仕事をさせることが出来るのですが、50度200mlになってしまうと、全体としてのエネルギー量は同じなのに、もう何の仕事も出来ません。もちろん、その水槽の外部にある0度の環境に対しては仕事をすることが出来るのですが、それはまた別の問題になります。熱的に平衡に達してしまったら、もう仕事をすることが出来ません。一つの系がだんだん熱平衡に達していく過程を『熱力学の第二法則』または『エントロピー増大の法則』と言います。生命体はそのエントロピーが熱平衡に達したときに完全に死亡するわけです。

 ここで言う死亡とは、どんなことをしてもその『元生命体』から生命の復元をすることが出来ない状態になることです。つまり、どこかに生きている細胞などが残っていてその細胞を培養してもう一度生命体を作り出す、と言うことが不可能になった状態です。70Lほどの水を先ほどのように100℃35Lと0℃35Lから作るとすると、それが熱平衡に限りなく到達するのに必要な時間は数時間、せいぜい数日間であり、80~90年の時間をかけてやっと熱平衡に達するということはありません。

 では体重が70kgの人間はなぜ単純な水の熱平衡に要する時間よりもはるかに長い時間を生きるのでしょうか。多くの人がその疑問に答えあぐねていましたが、『ネガ・エントロピーを食べる』と言った人がいます。つまり外部から負のエントロピーをもった食物を食べて、熱平衡に達しようとする自分自身を健全な状態に引き戻していると言うのです。その話を聞いたときに、うまいことを言うなあと思いました。胚芽から芽を地面の外に出して、太陽の光を浴びながら光合成をしてエントロピーのとても低い状態の栄養素を溜め込む。その低エントロピーの栄養素を食べて、私たちは自分のエントロピー増大を食い止めている…

 大地の恵みをたくさん食べましょう。それはきっと私たちの体の、増大したエントロピーを下げてくれるはずです。余談ですが、後にこのエントロピーと言う概念は様々な分野で遣われるようになりましたので、現代の文科系出身者で『エントロピー増大の法則』と聞いて、何のこと?とレスを返す人は少数派です。しかしそれが19世紀の広範に発達した熱力学に由来することを知っている人は、これもまた少数派です。

2015年5月12日火曜日

カマンベールチーズは認知症を予防する

 ネットで遊んでいて、チーズに関する記事を見つけました。面白かったので、コピーしてご紹介しましょう。以下がそのコピーです。

 『キリン株式会社の基盤技術研究所(所長 近藤恵二)は、小岩井乳業株式会社(社長 堀口英樹)、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科と共同で、カマンベールチーズの摂取がアルツハイマー病への予防効果があることを確認し、さらに、その中に含まれる有効成分として、オレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールを発見しました。この研究成果は米国科学誌「PLOS ONE(プロスワン)」に2報に渡る論文として掲載されます。

日本国内では急速な高齢者の増加に伴い、認知症は社会的な関心事となっています。現在、日本で460万人、世界で2400万人近くが認知症を患っているとされています。しかし、アルツハイマー病に代表される認知症には十分な治療方法が開発されておらず、日々の生活を通じて予防する取り組みが注目を集めています。食による健康の増進に取り組むキリングループでは、近年急速に解明が進んでいる脳科学の領域の研究を進めています。そして今回、カマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への予防効果のメカニズムを初めて明らかにしました。

チーズなどの発酵乳製品を摂取することにより老後の認知機能低下が予防されることは、疫学の分野ですでに報告されていますが、認知症への予防効果のメカニズムや有効成分は分かっていませんでした。今回の研究ではこの点に着目して、市販のカマンベールチーズの摂取によるアルツハイマー病への作用を検証しました。その結果、アルツハイマー病モデルマウスにカマンベールチーズから調製した餌を摂取させると、脳内のアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの沈着が有意に抑制され、脳内の炎症状態が緩和されることが確認されました。


さらに今回、有効成分としてカマンベールチーズにオレイン酸アミドとデヒドロエルゴステロールが含まれていることを発見しました。オレイン酸アミドは、脳内のアミロイドβなどの老廃物を除去する役割を担うミクログリアと呼ばれる細胞を活性化しながら抗炎症活性を示す成分です。また、デヒドロエルゴステロールは、抗炎症活性を示す成分です。これらの成分は、乳の微生物による発酵過程で生成されたと考察しています。』

 以上がプレス・リリースのコピー(一部端折りました)です。チーズは発酵食品の一つで、様々な種類があります。カマンベールチーズはフランス・ノルマンディ地方で誕生したものと聞いていますが、表面を白カビが覆っていて、そのカビが乳成分のあるものを分解して、独特の風味を生み出しているようです。カビの種類によって様々なチーズが作られます。多種類のチーズの中でカマンベールは比較的食べやすいほうですが、中にはプロセスチーズ以外は駄目という方もあると思います。

 わが国では発酵食品というと、醤油、味噌、納豆から始まり、様々ななれ寿司、くさやの干物など多岐に亘りますし、お酒も発酵食品の一種です。ですから、発酵食品を受け入れる素地は出来上がっていると思います。それに、牛乳を直接飲むと、其処に含まれている乳糖による糖毒性が近年明らかになってきているようで、酵母によって乳糖が乳酸まで分解されたほうが、健康にはよさそうです。幸い、このところカマンベールチーズをはじめとした各種チーズの値段もこなれてきていますので、晩酌の際につまむ小皿の一品にカマンベールチーズを加えてみたらどうでしょうか。

2015年4月28日火曜日

「高価な」プラセボのほうが効果的―パーキンソン病患者の症状改善に違い

 とても物議をかもしそうな研究が医学雑誌に掲載されました。プラセボ効果ってご存知ですよね。そう、偽の薬を投与した場合、本物の薬ほど効果的ではないものの、投与しなかった場合よりも明らかに症状改善に繋がっている効果のことです。この効果は新薬を開発する際の効果判定にも使われます。新薬とプラセボ群で効果のほどを比較して、統計学的な差がなければ効果はないとするのです。さて、以下がその研究の要約です。一部省略してそのコピーをご紹介します。

 パーキンソン病患者を対象とした小規模研究で、薬剤価格によってプラセボ(偽薬)効果に違いがあることが示され、「Neurology」オンライン版に128日報告された。この研究では、12人の患者に対してプラセボ2薬を1剤ずつ、時間をおいて投与した。どちらの注射薬も実際には生理食塩水だったが、患者は一方の薬剤は1回分1,500ドル(約176,000円)の新薬であり、もう一方は1回分100ドル(約12,000円)だと告げられた。医師は患者に、どちらの薬剤も同様の効果があると断言していた。

 その結果、高価な薬剤を投与されていると告げられた場合、投与後4時間にわたって振戦、筋固縮などの症状の改善が大きくなり、MRIでも患者の脳活動に違いがみられた。これらのプラセボではパーキンソン病の標準薬剤であるレボドパほどの効果は得られなかったものの、高価なプラセボの効果は、レボドパと安価なプラセボの中間に位置した。さらに、高価なプラセボを投与した時の患者の脳活性はレボドパと同様であった。

 研究を主導した米シンシナティ大学医学部のAlberto Espay氏によると、パーキンソン病の場合、プラセボ効果は脳が化学物質ドパミンを放出することによって生じると考えられるという。パーキンソン病はドパミンを産生する脳細胞の機能不全によって生じるが、一方で脳は、「治療によって症状から解放されるかも」といった報酬を期待したとき、ドパミンを大量生産する。今回の知見は「期待」が重要な役割を果たすことを示すものだと、同氏は話す。

 この症状改善が長期的に続くものかは本研究では明らかになっていないが、患者が「薬」を信じているかぎり、効果は保たれるとEspay氏は考えている。同氏はまた、単に「これから処方する薬は高価だ」と医師が告げるだけでも、パーキンソン病や他の疾患患者の治療において、プラセボ効果がうまく作用する可能性があるとしている。

 医療機関で投薬を受けている方たちへ。私たちは決して薬の代わりに安価な生理食塩水を点滴内に加えることなどしていません。大きな病院では臨床試験などを行うことがあります。その際は『この研究はある薬の効果を見るための臨床試験である。臨床試験だから当の薬剤とプラセボのどちらかを投与する。この薬が薬剤かプラセボかは投与するスタッフも知らされていない。結果を判定する人間もどちらが投与されたか知らされていない』ということを告げられます。その上で臨床研究に協力するかどうかが問われるのです。

 もちろんその薬剤の投与と観察のための入院期間に生じた費用は全部病院もちということも告知されます。その様な手順を踏んで臨床試験を進めていきますので、赤字続きの病院が経営状況を好転するためにプラセボを投与するということはありません。しかも、ある薬を投与したら、その分を納入業者から仕入れなければなりません。その使用と購入が一致しないと簡単な調査でばれてしまうので、決してプラセボを投与することなど出来ないのです。

 医学論文の中には時としてここで例示したように人の悪いものがあります。何かを知りたい場合、時には『騙す』ことが必要になる場合もあります。プラセボの効果とそのからくりを知りたい場合など、ここに示したように、薬剤の投与を受ける人を『騙し』ています。人間の残忍な本性を探る実験として有名なものがありました。だいぶ昔の話ですが、『懲罰が学習効果に与える影響を調べる』と称して、被験者には『苦痛を与える』方を受け持ってもらい、モニター用の窓から別の被験者が苦痛に身もだえする様子が見えるようにする、という実験です。

 この実験では実は苦痛にもだえているのは演劇か何かを学んでいる役者さんで、苦痛のまねをしていたのです。そして被験者は苦痛を与えるほうで、罰則無しの場合、どんどん拷問の領域まで痛みを加えていくという仮説を検証するための実験でした。怪しげな(一見怪しげでないから困るのですが)実験への強力は避けたほうが良いかもしれませんね。

2015年4月21日火曜日

II型糖尿病と関連する癌は?

 糖尿病と言うと、現代日本でもっともポピュラーで厄介な病気の一つです。私たちは有史以前からの蓄積された種の記憶(があるとすればですが)のために、どうしても栄養源になるものを食べたいと言う欲求が慢性的に存在します。そしてあまり自制心のない人は必要量を大きく超えて食べてしまうのです。たくさん食べても糖尿病にならない人も居ますし、そもそも大喰をしていても太らない人もいます。TVで知名度の高いギャル曾根はその代表でしょう。

 たくさん食べたい、もっとたくさん食べたい、そういう欲求の強い方にとって、ギャル曾根のような人物はとてもうらやむべき人かもしれません。それほど極端でなくても、たくさん食べて太っていても糖尿病にならない人も居ます。体質と言うこともその理由のひとつに挙げられるかもしれません。しかしもしかすると食べ方などにもヒントがあるかもしれません。でんぷんをあまり含まない野菜を最初にたくさん食べるようにしている人は概して糖尿病になりにくいようです。

 その糖尿病ですが、何らかの原因でインスリンを作る細胞が破壊されて、そのことが原因で糖尿病を発症するI型糖尿病、過食と運動不足が原因で体細胞がインスリンに反応しにくくなり、インスリンを作る細胞も疲れきってしまうII型糖尿病の二つに分けることが出来ます。私たちがよく目にするWEB上の医学雑誌の中に、II型糖尿病と癌の関連についての報告の簡単な紹介が出ていました。糖毒性は免疫系などにも影響してきますので、医療従事者が、糖尿病患者は癌に罹りやすいのではないかと考えても不思議ではありません。

 その雑誌の記事の一部をご紹介しましょう。以下がそのコピーです。『ギリシャ・ヨアニナ大学医学部のKonstantinos K Tsilidis氏らは、2型糖尿病とがんの関連について、メタ解析/システマティックレビューを包括的レビュー(umbrella review)するという手法で大規模な検討を行った。その結果、大半の試験で関連性が有意であると強く主張していたが、バイアスの可能性がなく強固なエビデンスで関連性が支持されるのは、乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発症リスクにおいてのみと少数であったことを報告した。BMJ誌オンライン版201512日号掲載の報告より。』

 Ⅱ型糖尿病は高血圧よりも自分自身の生活態度の反映と言う側面が強く出ます。自分で病気になって治療を求めにやってくる。多少好転しても生活態度を改めず、一見平衡状態で病の進展がないように見えるが実は水面下でじりじりと進行している。そしてある日からだの一部を切り落とす羽目になったけど、それだけにとどまらなかった…糖尿病とはそんな病気です。その糖尿病はそれ単独でも厄介なのですが、その上に乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発生率が高くなる、ついでに申し添えておけば、糖尿病では傷の直りがとても悪くなります。ですから手術のリスクも当然かなり高くなるのです。

 糖尿病はとても厄介な病気です。例えば数年ぶりに再会した友と酒を酌み交わす、そのとき多少羽目をはずしても大勢に影響はない、と多くの人が考えます。実際影響は微弱です。しかしそこで羽目をはずす人はほかの局面でも羽目をはずすことが多いのです。そして病は進んでいく…水面下で進む病の進行を想像してください。やがて眼が見えなくなる、足が腐ってくる、腎不全になって透析の必要が生じる。全身の血管がぼろぼろになり、あちこちの臓器が突如痛み始める(血栓症)、そんな風に病状が進んでいきます。

 栄養指導を行う人が鬼のように見えるかもしれません。無理難題を言っているように思えるかもしれません。しかし、ある時期に食べ過ぎてインスリン分泌細胞が痛んで、体中の細胞のインスリン感受性が低下してしまったら、ツケを払うしかないのです。そのツケの取立ては容赦ない。そんな形でツケを払うのがイヤなら、最初から妙な形で体に悪いツケを溜め込まないこと。そのあたりの事情はサラ金地獄と似ているかもしれませんね。お食事は計画的に!