2015年7月31日金曜日

骨粗鬆症の治療戦略


 今回で骨粗鬆症に対する項目を一応終えたいと思います。女性は45歳頃から急激に骨密度が低下するので、ちゃんとした対策が必要です。まず常識的なところとして、別のブログに紹介していますが、若い頃に、妙な思い込みに従ったダイエットでカルシウム摂取を極端に減らすと言うことをやめるべき( http://landarzt.blog.fc2.com/blog-entry-935.html )です。更年期を迎える前に、既に骨粗鬆症予備軍状態になっていると、50歳前後で腰椎の病的骨折(圧迫骨折)を起こしてしまい、それから40年に及ぶ腰の曲がった生活を強いられかねません。

 しかし、骨粗鬆症の最初の項で述べたように牛乳のがぶ飲みで一過性に血中カルシウム濃度を高めると言うやり方にも弊害があるようで、コンスタントにゆっくり吸収されるカルシウム摂取をしていく必要があります。そして危険な年頃になったら、まず定期的に骨塩定量の検診を受けることです。年に一度程度でいいと思います。そして骨密度が低下していたら(その頃でしたら、食生活の改善などで一年ほど費やしても構わない)行動を起こす必要があります。最初食事指導、運動、日光を良く浴びるようにするといった日常生活の改善から始めましょう。

 もし最初の骨塩定量の結果が既に病的な低下を示していたら、薬剤による治療を開始すべきです。治療は血液中のカルシウム濃度が正常範囲にあるか低いかで違ってきます。カルシウム濃度が正常範囲にあれば、ホルモン剤(エビスタ®とビビアント®)を開始します。カルシウム値が低ければ、ビタミンD3(VD3)製剤をホルモン剤とともに開始します。この治療中に、血液中のカルシウム濃度を二ヶ月に一度測定し、もしカルシウム濃度が低下し、VD3製剤未使用なら併用することになります。治療中に骨密度の測定を最初は半年に一度行い、治療効果を見ていきます。余り芳しくないようでしたら、他の薬剤に切り替える必要があると思います。

 6570歳になったら、上記のホルモン剤からビスフォスフォネート製剤に切り替える事を薦めます。男性の場合は最初に選ぶお薬がビスフォスフォネート製剤になると思います。効果が無ければテリパラチド系の薬剤になりますが、これはお薬のコストが他の薬剤の10倍から20倍になってしまいますので、年金生活になる時期にお金のかかる薬にチェンジするのは厳しいのではないかと思うのです。この薬は使用制限が確か2年まででしたので、仕事の収入がある時期に使うようにしたいと思います。

もう一つ、抗RANKL抗体という選択肢もあります。半年に一度の皮下注射ですし、薬価も先に上げたテリパラチド製剤よりもはるかに安くつきますので、使いやすいのですが、半年に一度と言うと、次回皮下注を忘れてしまうと言う不安があります。ビスフォスフォネート製剤にも半年に一度とか1年に一度の注射と言うのが開発されつつあります。その種の薬剤は、記憶力の衰えが目立つとしになると、正直言って使いたくないものです。なお、この群の薬剤は5年以上続けると効果がうせると言われています。

腰椎の圧迫骨折などで我慢できない痛みがあるときなど、カルシトニン製剤が効果を示すようで、私も何度かこの薬を処方したことがあります。23日で痛みが引いてくるようですが、これが薬の効果によるものか自然経過なのか分かり難いものがあります。しかし、『痛い痛い』と言っている人に、圧迫骨折による痛みを除く目的で薬効が認められている薬を投与しない群と投与する群で痛みの退く期間を比較すると言うのは、余り褒められたことではないと思いますので、当院ではそんなことはしていません。

骨粗鬆症への対処法をまとめると、①若い頃の食生活の改善、②45歳を過ぎたら骨密度の検査を定期的に行う、③骨密度が低下し始めたらエビスタ®かビビアント®の服用を開始する。その際、骨塩の定量検査は定期的に行う、④前期高齢者になる頃にビスフォスフォネート製剤に切り替える、⑤ビスフォスフォネートを4年半ほど続けたら抗RANKL抗体に切り替える。お財布にゆとりがあればテリパラチド製剤を⑤の前に使うと言う選択肢もある。

大まかに言うと、以上のように進めるのがいいと思うのですが、85歳頃になって、圧迫骨折による腰痛で始めて来院するといったケースが後を絶ちません。腰が激しく曲がった状態で日常生活を送るのは決して快適ではありませんので、45歳前後になったら受診するようにしたほうが望ましいと思います。そしてダイエットに対する関心が最も高い10代後半から20代の頃に一度病院を受診して骨密度を測り、その際栄養指導を受けると言うのが理想的です。

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