2015年4月21日火曜日

II型糖尿病と関連する癌は?

 糖尿病と言うと、現代日本でもっともポピュラーで厄介な病気の一つです。私たちは有史以前からの蓄積された種の記憶(があるとすればですが)のために、どうしても栄養源になるものを食べたいと言う欲求が慢性的に存在します。そしてあまり自制心のない人は必要量を大きく超えて食べてしまうのです。たくさん食べても糖尿病にならない人も居ますし、そもそも大喰をしていても太らない人もいます。TVで知名度の高いギャル曾根はその代表でしょう。

 たくさん食べたい、もっとたくさん食べたい、そういう欲求の強い方にとって、ギャル曾根のような人物はとてもうらやむべき人かもしれません。それほど極端でなくても、たくさん食べて太っていても糖尿病にならない人も居ます。体質と言うこともその理由のひとつに挙げられるかもしれません。しかしもしかすると食べ方などにもヒントがあるかもしれません。でんぷんをあまり含まない野菜を最初にたくさん食べるようにしている人は概して糖尿病になりにくいようです。

 その糖尿病ですが、何らかの原因でインスリンを作る細胞が破壊されて、そのことが原因で糖尿病を発症するI型糖尿病、過食と運動不足が原因で体細胞がインスリンに反応しにくくなり、インスリンを作る細胞も疲れきってしまうII型糖尿病の二つに分けることが出来ます。私たちがよく目にするWEB上の医学雑誌の中に、II型糖尿病と癌の関連についての報告の簡単な紹介が出ていました。糖毒性は免疫系などにも影響してきますので、医療従事者が、糖尿病患者は癌に罹りやすいのではないかと考えても不思議ではありません。

 その雑誌の記事の一部をご紹介しましょう。以下がそのコピーです。『ギリシャ・ヨアニナ大学医学部のKonstantinos K Tsilidis氏らは、2型糖尿病とがんの関連について、メタ解析/システマティックレビューを包括的レビュー(umbrella review)するという手法で大規模な検討を行った。その結果、大半の試験で関連性が有意であると強く主張していたが、バイアスの可能性がなく強固なエビデンスで関連性が支持されるのは、乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発症リスクにおいてのみと少数であったことを報告した。BMJ誌オンライン版201512日号掲載の報告より。』

 Ⅱ型糖尿病は高血圧よりも自分自身の生活態度の反映と言う側面が強く出ます。自分で病気になって治療を求めにやってくる。多少好転しても生活態度を改めず、一見平衡状態で病の進展がないように見えるが実は水面下でじりじりと進行している。そしてある日からだの一部を切り落とす羽目になったけど、それだけにとどまらなかった…糖尿病とはそんな病気です。その糖尿病はそれ単独でも厄介なのですが、その上に乳がん、肝内胆管がん、大腸がん、子宮体がんの発生率が高くなる、ついでに申し添えておけば、糖尿病では傷の直りがとても悪くなります。ですから手術のリスクも当然かなり高くなるのです。

 糖尿病はとても厄介な病気です。例えば数年ぶりに再会した友と酒を酌み交わす、そのとき多少羽目をはずしても大勢に影響はない、と多くの人が考えます。実際影響は微弱です。しかしそこで羽目をはずす人はほかの局面でも羽目をはずすことが多いのです。そして病は進んでいく…水面下で進む病の進行を想像してください。やがて眼が見えなくなる、足が腐ってくる、腎不全になって透析の必要が生じる。全身の血管がぼろぼろになり、あちこちの臓器が突如痛み始める(血栓症)、そんな風に病状が進んでいきます。

 栄養指導を行う人が鬼のように見えるかもしれません。無理難題を言っているように思えるかもしれません。しかし、ある時期に食べ過ぎてインスリン分泌細胞が痛んで、体中の細胞のインスリン感受性が低下してしまったら、ツケを払うしかないのです。そのツケの取立ては容赦ない。そんな形でツケを払うのがイヤなら、最初から妙な形で体に悪いツケを溜め込まないこと。そのあたりの事情はサラ金地獄と似ているかもしれませんね。お食事は計画的に!

2015年4月6日月曜日

禁煙の勧め

 私が20前後の頃、本邦での喫煙率は60%を超えていたと記憶しています。先日、禁煙について資料に当たっていたら、今の喫煙率は21.6%だそうです。タバコを習慣的に吸う人は5人に1人といったところまで、喫煙者数が減ってきています。何でもそうですが、ある集団の構成員数が減ると、その集団は先鋭化する。喫煙者の集団の構成員数が減ったからといって、どう先鋭化するのかといわれても困るのですが、慢性閉塞性肺疾患の患者数は増加しているようです。

 この厄介な病気はCOPDとの略称が一般的になってきていて、多くの人がCOPDといったほうが話が通じやすいという状態になっているかもしれません。原因はタバコ、そのほかにも上気道をいたぶる様な刺激性のある微細な粉末や気体を慢性的に吸入することです。一般に気道は口や鼻から始まって、のどの奥、声帯、そして気管へと続きます。気管から気管支、細気管支へと枝分かれしていき、最後には肺胞に至ります。

その肺胞までの気道系は繊毛上皮に覆われていますが、その上皮細胞の一部の場所が杯細胞という別の細胞に入れ替わっています。杯細胞からは粘り気の強い液が分泌され、繊毛上皮の繊毛によってそれが全面に広げられます。そしてその上皮に備え付けの動くひげで上へ上へと押し上げられていき、声帯の直下まで来ると、喉がくすぐったくなって咳き込む。そのねばねばした液が痰として喀出されるという段取りになっております。気道を通った空気の中に含まれる様々な好ましくない物質がそのねばねばに絡めとられて、痰となって体外に排出されるのです。

長年タバコを吸っていると、先に述べた繊毛上皮が部分的に麻痺していきます。タバコの煙が一番強く当たるところから順を追って麻痺していくのですが、そのことで杯細胞で分泌された液体が引っかかってしまいます。しかし末梢のほうからは次から次へと分泌物が上ってきます。ある箇所でストップしてしまうと、その部分が詰まってしまいます。肺のあちこちで小さな部分が詰まり、その割合がある程度大きくなると息苦しさを覚えるようになります。

繊毛上皮は本来の仕事を果たさなくなるだけでなく、細胞そのものが扁平上皮へと変化してしまいます。これを扁平上皮化生といいますが、これは一種の腫瘍ですね。ある人は、細気管支の閉塞が進んでいき、日常動作に制限が加わるようになります。そして在宅で酸素を吸っていても息苦しさが直らなくなっていく。この状態をCOPDといいます。ある人は扁平上皮化生から扁平上皮癌へと進んでいきます。COPDの患者さんは肺がんになった人を羨ましく思うといいます。それほど苦しいのです。

2015年3月31日火曜日

居眠り運転と睡眠時無呼吸症候群

 今まで居眠り運転をしたことはありませんか?知り合いで、バイク運転中に居眠りしていたなどと言うやつがいますが、怖いですね。私も一度居眠り運転して、後ろから来るトラックにクラクションを鳴らされ、パッシングされてやっと眼が覚めたという経験があります。昼間眠いのは夜間の睡眠中に無呼吸となり、良眠が得られなくなることが原因だとされています。これを睡眠時無呼吸症候群といい、SASと略記します。SASと言うと英国陸軍の特殊部隊を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、ここでは睡眠時無呼吸の略称として用いることにします。

 多くの人が20歳前後と比べると体重増加を経験しています。そして、こいつは太っているな、と思える人はよく居眠りをする。だから肥満とSASは結び付けられますが、解剖学的にも肥満して口から喉の辺りにある脂肪の量が増えるとその脂肪の重量のために気道が(特に仰向けに寝たときに)狭くなり、睡眠中にその気道がふさがれます。ある程度の時間が経つと血液中の二酸化炭素の量が増えますので、呼吸に対する強いドライブがかかり、深い深呼吸のような呼吸が再開し、しばらく正常な呼吸を繰り返します。そしてしばらくすると再び呼吸が止まってしまいます。

 SASの原因は肥満のほかに、下顎が小さいとか、扁桃肥大などで生じる気道の狭窄などがあります。対処法としてはCPAP(気道に陽圧をかける)療法、スリープスプリント(マウスピースを用いて下顎を前進させる)、そして口蓋垂、郊外扁桃、軟口蓋の一部を切除して気道を広げると言う外科的な療法があります。CPAP療法もスリープスプリント装着も鼻や口腔内に妙なものをくっつけるので、それこそ睡眠障害を引き起こしそうなものですが、CPAP療法によって昼間の眠気が完全に取れたという例を知っています。

 SASの治療は保険適応になっているので、SASの診断が確定したら、一ヶ月に一度医師の診察を受けながらCPAPの装置をレンタルして使うと言うことになります。診断が確定して、治療を決めたら、業者さんが機器をご自宅に持参してくれます。3割負担の方で月々5000円前後だったように記憶しています。その装置ですが、旅行などにも持参することが前提となっていますので、どの会社から出ているものも基本的に小型で携帯が負担になるというほどのものではありません。

 診断はポリソムノグラフと言う機械を使って行います。機械を貸し出すか、入院していただき、夜間睡眠中のデータを解析することになります。当院でも4月からSASの診断と治療に本格的に取り組んでいく予定です。SASは睡眠中に本人の自覚のないままストレスホルモンが上昇することから糖尿病、高血圧、循環器系の疾患を悪化させるとの報告があり、健康に齢を重ねたい方にとって、SASは大敵です。多少とも肥満気味の方はぜひとも睡眠中の呼吸を調べましょう。自宅での検査が鬱陶しいという方は12泊の入院で診断が可能です。もしSASと診断されたらCPAP療法を受けてください。

2015年3月20日金曜日

糖質制限ダイエットの顛末


 昨年の10月に糖質制限ダイエットについて述べました。自分がこのダイエット方法を食事にとりいれたのが7月末あたりですから、半年以上が経過しています。その結果、体重が6㎏ほど減りました。年末に血液検査の異常がどのようになっているのか知りたいと思い、検査してみました。肝機能はγ-GTPが長い事3ケタを記録し続け、悩みの種でした。「これはきっと遺伝的な体質に違いない」そのように結論付けたいと思ったことも幾度となくありました。

 たとえば何らかの遺伝病に伴うI型糖尿病などはもちろんインスリンを作る細胞が壊滅する事によって起こるもので、食事療法をいくら頑張っても糖尿病の病態が根本的に好転することはありません。しかし、食事と飲酒に伴うγ-GTP値の上昇は遺伝子の状態によって決定されたものではないのです。もちろん同じような生活習慣を持っている人で、かなり早期に糖尿病にまで進んだ人もいますし、肝炎になってしまった人もいます。一方で、全く検査結果に暴飲暴食の痕跡を残さない人もいるのです。そのあたりは、個人差と言うか、個人の遺伝情報によって影響を受ける範囲と言っていいでしょう。

 私のしつこい脂肪肝の兆候は、この糖質制限ダイエットで簡単に消えてしまいました。現在まで、私は一日130g程度の炭水化物をとるというマイルドな糖質制限食を行っています。そして週2(月曜日と木曜日)は夕食を抜いています。最初は月、木の両日に飲酒で空腹を紛らわせようとしていたのですが、どうもこれはよろしくないようで、プチ断食の日は観測小屋の内装にあてることにしたのです。それほどの重労働をするわけではないので、空腹のために倒れるなどと言う事はなさそうだし、気が紛れて疲労するので下宿に帰ったら熟睡が期待できると言う訳です。

 その努力の甲斐あって、体重もかなり順調に低下傾向を示していたのですが、検査結果を見てびっくりしました。肝機能がすべて正常、それも正常上限のあたりではなく、ほとんど真ん中あたりの優等生状態です。しかも血糖値の平均を表しているA1Cもずいぶん低い値になっています。このダイエット方法のいいところは、あまりうるさいことを要求しない点です。私は黒糖飴を一週間に一袋弱消費しています。その程度は大丈夫なようです。ただし、肉や魚の消費量がかなり増えたために、クレアチニン値が上昇し、BUNが正常上限辺りまで上がってしまいました。これは当然予想していたことで、自分的には問題ありません。

 このダイエットによって私の寿命が延びるかどうか、それはわかりません。私と全く遺伝的に等価な人間を見つけ出して、通常の食事を食べさせることで両者の死ぬ時の年齢を比較する、そういったサンプル(つまり一卵性双生児)を10組とかで調べれば、糖質制限食が長期的に体を健康に保つ(または健康を害する)ことが証明されるのですが、かなり困難です。だとするとランダムに10000人ずつのグループの一方に糖質制限食、もう一方に普通食を食べさせて比較することになりますが、本邦ではそのような研究があまり尊ばれていないようで、そうした研究の存在を知りません。

 しかし、今脂肪肝から肝炎に進行する瀬戸際の人とか、糖尿病がもうじき始まるかもしれない人(つまり食後高血糖がみられるがA1Cはまだ正常範囲と言う人)では、このダイエット法は効果があります。野菜(特に葉物)や魚、肉に関する制限が無いので、決して辛くはありません。週2回のプチ断食も慣れてしまえば大丈夫なのですが、これは一家団欒の食事の中で自分だけ食べないというのでは辛いと思いますので、これだけは環境が許すのでなければお勧めしません。今からでも検査結果を正常値に戻すことは可能です。頑張ってみませんか?

2015年3月13日金曜日

運動不足は肥満よりも危険


 医療従事者向けのWeb雑誌が複数あります。それらの中に上記のタイトルを見つけました。私も普段の生活は座ってばかりで、これではよろしくないと内心では考えていますので、その記事を読んでみました。そのついでに一部をはしょってご紹介しましょう。以下がその記事の内容(一部省略)です。

 座ってばかりの生活は、肥満の2倍有害である可能性が新たな研究で示され、「American Journal of Clinical Nutrition」に114日掲載された。しかし、120分の早歩き程度の運動により、早期死亡リスクを30%低減することも可能だという。

 研究の筆頭著者である英ケンブリッジ大学のUlf Ekelund氏は、「運動不足の人は、運動量をわずかに増やす努力をするだけで大きな健康効果が得られる」と述べている。このリスク低減は、正常体重、過体重および肥満のいずれの人にも認められたという。公衆衛生の観点から、身体活動レベルの増大は肥満の低減と同じくらい、あるいはそれ以上に重要であると付け加えている。

 今回の研究では、334,000人の男女のデータを収集。平均12年の追跡期間中、被験者は身長、体重、胴囲を測定し、身体活動レベルを自己申告した。その結果、全く運動しない場合に比べ、中程度の運動が早期死亡リスクを低減する鍵となることがわかった。1日に90110カロリーを消費する運動により、早期死亡リスクを1630%低減できると研究グループは推定している。

 中等度の運動による効果は正常体重の人で最も高かったが、過体重および肥満の人にも便益が認められた。最新のデータを用いると、ヨーロッパの男女において920万件の死亡のうち337,000件が肥満に関連するものであると推定されたが、運動不足に関連すると思われる死亡数はその2倍であったという。

 「ヒトの身体をみると、骨や筋肉は不規則な変わった形をしている。この筋骨格の構造から、人体は動くためにできていることがわかる」と、米ニューヨーク大学メディカルセンター(ニューヨーク)のSamantha Heller氏はいう。人体の運動への適応力は驚くべきものであり、有酸素運動は免疫系を刺激し、精神機能を向上させ、エネルギーを増大させ、筋肉や骨を強化し、心疾患、がん、糖尿病などの慢性疾患リスクを低減すると同氏は指摘している。

 以上で引用を終わります。毎日早足で20分歩くこと、この程度の運動であれば比較的取り組みやすいのではないでしょうか。もし、雪に閉じ込められて歩けない、というのであれば、ステッパーを買い込んで、屋内で運動をすることも考えてください。それでも充分有効性は認められそうですね。


2015年2月26日木曜日

人は如何に騙されやすいか


 一酸化二水素(Dihydro-Mono-Oxide = DHMO)、何のことだか解りますか。この物質についていくつかの性質を列挙します。

1.DHMOは無色、無臭、無味であるが、毎年多数の人々を死に至らしめている。
2.DHMOは水酸の一種で、酸性雨の主成分であり、温室効果にも大きな効果を持つ物質である。
3.化学反応において、酸とアルカリを中和した際などに生じる副産物にも大量に含まれている。
4.DHMOの分解には大量のエネルギーが必要で、分解後には高濃度の水素ガスが発生する。
5.液体のDHMOを呼吸器系に吸引すると急性の呼吸不全を引き起こすことがある。
6.経口摂取で発汗、多尿、腹部膨満感、嘔気、嘔吐、電解質異常、悪心、下痢、腹痛、頭痛を来すことがある。
7.大量に摂取すると痙攣、意識障害等の中毒症状を引き起こし、最悪の場合死に至る。
8.重度の熱傷の原因であり、固体の状態のDHMOが長時間人体に触れていると体組織障害を起こす。
9.気体状態でも危険な性質を持ち、人体に触れると糜爛性の傷害を受けることがある。爆発的な性質を持つことから、発電にも用いられる。
10.不妊男性の精液や、死亡した胎児の羊水、癌細胞から多量に検出される。
11.バイオテクノロジー分野においても、動物実験や遺伝子操作などの過程で用いられている。
12.ある種のジャンクフードにも大量に含まれ、パッケージしたものを飲用に販売している業者さえある。
13.農薬散布にも使われ、汚染は洗浄後も残る。
14.金属を腐食させ、自動車の電気系統の異常やブレーキ機能低下を来す。
15.工業的に溶媒や冷却剤などとしてコンビナートや原子力施設で大量に使用され、そのほとんどは河川に投棄されている。

15年ほど前だったともいますが、米国で中学生が、『人は如何に騙されやすいか』と言うテーマの実証実験のために上述のような性質を持つ『一酸化二水素』を毒物として規制すべきかどうか、と言うアンケートを実施し、50人中この一酸化二水素が水のことだと気が付いたのは一人だけだったと言う有名な話があります。

 どんな物質でも、表現の仕方を変えれば様々な印象を人に与えることが出来ると言う例になります。上述の例は決して嘘を言っている訳ではありません。毎年多くの人が溺死しますし、水分子は双極子として酸の性質を持っています。酸とアルカリの中和で出来るものは、HイオンとOHイオンの結合ですから、水になります。その他の項目も、至極当然のことなのです。しかし熱傷の原因、原発で使われる、金属を腐食させる、酸性雨の主成分などと並べられると、むむっと考え込んでしまいますね。

 この例はわざと人を煙に巻くと言う目的で提示されたものですが、そうではなく、意図的に物事の本質を見えなくするために似たようなことが行われることは、各方面で行われているようです。現代は一昔前と比べて、私たちに流れ込む情報量が比較にならないほど多くなっています。その情報の洪水の中で、個々の情報の『本質』を見極めるのはとても難しいのですが、絶対必要な情報だけを吟味して、取り込んでいく必要があると思われます。


2015年2月20日金曜日

糖尿病:この厄介な病気


 糖尿病は現代の日本でとてもポピュラーな病気です。この40年間にわが国は高度成長を遂げましたが、経済成長率をはるかに凌駕して糖尿病患者数が激増しました。40年前の約3万人から近年700万人程度にまで増加しており、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を含めると2000万人に及ぶとも言われています。

 糖尿病はもちろん高血糖そのものによる症状を起こします(のどの渇きや多尿など)。しかし大きな問題になるのは糖毒性によるものです。罹病期間が長期にわたると血液中の高濃度グルコースの一部(0.1%前後だったと思います)が直鎖型になり、その直鎖グルコースの一方の端にあるアルデヒド基(ホルマリンのようなもの)の反応性の高さのため血管内皮のタンパク質と結合(これを糖化反応といいます)し、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、目、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な障害(糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症)を及ぼすのです。

 さらに インスリンは、栄養素の同化を促進し、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込みます。ところが、細胞内にブドウ糖を取り込んでも、それを利用することが出来ませんので、浸透圧で細胞が膨れてきます。血管が膨れると血管の内腔が狭くなり、そのために高血圧になりやすくなります。このように糖尿病は万病の元、なんとしても回避する必要があるのです。ところが、一方でこの病気はその初期に何の自覚症状も出現しません。

 もともと食べるのが大好きで、どうしても過食になってしまう人がⅡ型糖尿病になりがちと言う傾向があります。健診などで『境界型の糖尿病です』などと指摘されても、自覚症状がないために、あまり気に留めずに食べたいものを食べたいだけ食べるという生活を続けることが多いのです。その結果、だんだん顔色が悪くなり、むくみがひどくなり、とても日々の活動が辛くなる、病院を受診したところ透析が必要だと言われてしまう、などということが起こります。

 その時点で、糖尿病の重大な合併症である微小血管障害が発生してしまっています。その障害を受けた血管は元に戻すことが出来ません。糖尿病は血糖値が急に上昇するような食生活を続けることで、インスリン分泌細胞が能力以上に働かされて、インスリンを大量に作るようになるところから始まります。インスリンは栄養素を同化して体内に取り込むので、二重の意味で太ります。栄養過多による体重増加とインスリンによる肥満です。肥満すると体のインスリン抵抗性が増します(インスリンが効き難くなる)ので、膵臓にかかる負担はますますきつくなります。

 食べてからワン・クッション置いてインスリンが大量に分泌され、かなり高くなった血糖値がいきなり下がる、そうすると栄養は充分行き届いているのに空腹を感じて甘いものを欲するようになる、そこでおやつなどを食べてしまう、さらに太るという何重もの悪循環に陥ります。ますます太り、インスリンの要求量がさらに増加し、体内のインスリン生産工場が疲弊して部分的な操業停止に追い込まれます。細胞は必ずしもそうした過重労働に対してすべてが同じレベルでダウンするわけではないからです。

 つまり食後にインスリンの出が悪くなり、食後高血糖の度合いがひどくなる。こうして全身の状態がどんどん悪くなる。これが糖尿病です。こうなる前、インスリンがまだ正常に作られているときに生活習慣を改めると、糖尿病の進行をストップすることが出来るのではないかと私は考えています。ではいかにして悪しき食生活習慣を改めるか。賛否両論がありますが、私は糖質制限ダイエットが最も理に適っていると考えています。その理由は二つ。一つ目は栄養士さんが勧める糖尿病食よりも自制心が少なくて済むという点です。

 私は経験のためにある病院の糖尿病食を食べてみたことがあります。一言でその味を表すと『まずい』ということになります。甘辛、というのはわれわれが慣れ親しんだ調味の基本です。それがいずれも使えない。だから我々の味覚からすれば美味しいと感じることが出来なくなります。それに分量が少なく、満腹できない。もっとも、美味しくない食事だから分量も少なくてちょうどいいのだろうなどと勘繰りたくなりますが、分量の少なさも絶望的です。つまり、味の上からも量の上からも満足できない。

 それに対して糖質制限食はまず野菜を食べる。特に根菜とかかぼちゃなど、でんぷんをたくさん含むものを減らして葉っぱ物を食べます。加熱調理したものならおひたし、生野菜も大いに結構。たくさん食べてください。ドレッシングはレモン汁とオリーブ油、少量の塩分を生野菜の上にかけるのが一番簡単です。次に豆腐、魚、肉などのたんぱく質。これもたらふく食べて結構です。そうした食事の合間にチーズ、ヨーグルトなどを食べましょう。そしてご飯、これは少量です。しかしそれまでに充分満腹していると思いますので、最後の締めはあっさりと、です。

 理由の二つ目は安全だということ。極端なデンプン質の制限はいけません。120g以下というのを提唱している人もいますが、これはやめてください。ご飯は一食で1/4合ほど。これだと13食で糖質の摂取量が120gほどになり、程よいところです。固ゆでのゆで卵ダイエットなど単一の食べ物を食べて痩せるというのがありましたが、薦められません。栄養のバランスが悪いのです。絶食、これは普通の人が数日間とかだったら危険はないと思いますが、その後の食の解禁日に気をつけてください。消化管の上皮細胞が大部分剥奪してしまっているのでいきなり食べると危険です。

 糖尿病が進むと、心筋梗塞などで急死するか、透析を受けながら何かと不便な生活を送るか、眼が見えないようになって不自由するか、足が腐ってきて追加切断を繰り返すか、あるいは急死以外のいくつか上述の症状が重なるか、決して明るい未来はありません。日常生活を送る上でも様々な制約が課せられるようになります。糖尿病予備軍の方はいうに及ばず、ちょっと太り気味の方も、栄養のとり方を考えてください。