2015年10月20日火曜日

職場同好会のハイキングと高原サミットのプレイベント


 1017日の土曜日に『秘境』に行って来ました。職場の仲間たち9名と一行の一人のお孫さんの合計10名でした。その秘境とは霧ヶ滝。落差70mのほぼ垂直の滝で、下の方では水が霧状になっていて、そのために滝つぼがないという状態です。林道から2.5kmほどのところにありますが、京阪神の山と異なり、随分自然に近い状態で、歩き難いと感じる人が多いのではないかと思います。このあたりは鳥取県との境界に近く、少し足を伸ばせば、鳥取県の雨滝とか筥滝までいけます。こちらのほうは駐車場から徒歩数分でたどり着くので、とても気軽に行けます。





 










 霧ヶ滝は2.5kmほどの距離があり、熊が出そうなことや、滑落して怪我をするとそのままこの季節だったら凍死してしまう危険性もあり、単独行動は慎むべきでしょう。滝に至るまでの道は歩いていて楽しいものです。お隣の県にある雨滝も落差が40mほどあり、水量が多いので迫力満点なのですが、私の個人的な意見を言わせてもらえば、霧ヶ滝のほうが風格が上だという気がします。その辺りは好みの問題もあるので、絶対にそうだとは申しませんが。かなり奥まったところにあり、人に知られていないのはちょっと残念です。往復5kmほどの距離をゆっくり歩いて4時間、ハイキングが終わったら林道を数分(車で)上流に走ると霧滝ヤマメ茶屋という食事処が出現します。


 深い山奥に建設資材を搬入するだけでも大変だっただろうと思うのですが天井の高い建物がそびえています。ここでは岩魚やヤマメを中心としたメニューを楽しめます。メニューは一種類だけで1800円、かなりリッチな食事です。季節ごとに内容は少し変わるようですが、岩魚の塩焼き、岩魚の刺身、ヤマメの天ぷら、吸い物、山菜等の天ぷらEtcとなります。美味しい食事を楽しんでいると、登山の疲れも癒されてきます。この茶屋は前もって電話予約しておかないと、食べ物にありつけません。連絡先は0796-92-2692(小椋さん)です。本来岩魚、ヤマメの養殖を行っているところで,食事はその方たちの好意で提供するもので、要求がある時のみオープンしています。
 







 







  18日には上山高原でイベントがありました。来年の秋に全国草原サミットを上山高原で開催すると言うのでプレ・イベントが行われました。狭い道路で蛇行しており前方視界が良好とはいえませんので、正面衝突などを避けようと思ったら、前方から対向車が来ることを前提としながら運転する必要があります。18日は好天に恵まれ、日差しが強くて肌の露出部が焼けました。餅つき大会などのイベントが用意されており、岡本町長の力のこもった杵使いで『若い者に負けんぞ』と言う声が聞こえてきそうでした。






2015年10月13日火曜日

帯状疱疹後神経痛と治療-1


 「1年の中で特に起こりやすいという時期はない」とされていましたが、宮崎県内の医療機関が19972006年に行った5万人近い大規模な集団に対する調査では、8月に多く冬は少なく、帯状疱疹と水痘の流行は逆の関係にあることが分かりました。この現象は、10年間毎年観測されたとしています。この調査とは別に、年齢的に水痘患者数の多い小児との接触の機会の多い、幼稚園や保育園の従事者には帯状疱疹の患者数が少ないことも明らかになっています。

 どうやらウイルスとの接触で免疫価が高くなり帯状疱疹が発症し難くなっていることがその理由のようです。 一般的には、体調を崩しやすい季節の変わり目に多く、基本的には一生に1回であることが多いのですが、2回以上罹患する人もいます(発症部位は異なることが多い)。再発するのは5%以下。ただし、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病や後天性免疫不全症候群(AIDS)、骨髄疾患や免疫抑制薬などで免疫機能が低下していると短期間に何回も繰り返します。

 帯状疱疹の活性化時期には体液中に水痘ウイルスが存在する可能性があり、口腔内から検出されることもあります。また皮膚と皮膚の接触感染は勿論、体液感染や飛沫感染、物品を介しての伝染の可能性も否定できません。妊娠中に帯状疱疹を発症しても非妊娠時と経過は変わらず先天奇形は起こらないと云われていますが、帯状疱疹は胎児に感染するので、産婦人科での診察が必要でしょう。高齢者の場合、神経痛が強く残ることがあります。それを疱疹後神経痛、帯状疱疹後神経痛といいます。

 帯状疱疹としてではなく水痘として感染します。飛沫感染ではなく接触性の感染で、水疱の中に存在する水痘・帯状疱疹ウイルスが気管・気管支の中で増殖して水痘となります。発病した子供を抱くなどした場合、感染の恐れがあります。一度水痘になると、たとえ治癒しても水痘のウイルスが神経節中に潜伏している状態(潜伏感染)が続きます。ストレスや心労、老齢、抗がん剤治療・日光等の刺激などにより免疫力が低下すると、ウイルスが神経細胞を取り囲んでいるサテライト細胞の中で再度増殖する(再活性化する)ことがあり、この増殖によって生じるのが帯状疱疹です。

2015年10月5日月曜日

坐骨神経痛-2


 しばらくこのブログに手をつけていませんでした。気分的にとても忙しく、坐骨神経痛に関して、その続きを書いていく気力が沸き起こらなかったのです。言い訳はこの位にしておいて…腰部硬膜外ブロックと仙骨部硬膜外ブロックがありますが、外来では手技が容易で安全性が高い為に仙骨部硬膜外ブロックがよく用いられます。下位腰椎の疾患による腰痛や坐骨神経痛に効果が有りますが、薬剤が病変部に到達せず無効な場合も見られます。

 また、麻酔科以外の先生がこのブロックを行うときに、皮下に痛み止めの局所麻酔薬を予備的に注射すると言うことをせず、いきなり比較的太い針を突っ込む事が多いので、とても痛い経験をした方も少なくないようですが、麻酔科でこの手技を学んだ人たちであれば痛み止めをするはずです。痛みを訴えてやってきている患者さんにぎょっとするような痛みを加えるのは、同業者として余り感心できません。その際にはぜひとも麻酔科でこの手技を受けてください。腰部硬膜外ブロックでは、手技が難しいことに加えて、ブロック注射のあと2時間ほど臥床を強いられるので一般的ではないのですが、仙骨ブロックよりも効果的です。

 腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症の坐骨神経痛に対しても最も即効性のあるブロックが選択的神経根ブロックです。ブロック直後はほとんどの場合疼痛が消滅しますが、穿刺時の痛みが強く、神経根損傷の可能性も有るため、漫然と何回も施行することはありません。坐骨神経ブロックは梨状筋症候群、帯状疱疹後神経痛などに対して用いられます。外来で容易に施行できますが、硬膜外ブロックや神経根ブロックに比べると穿刺部位の目印がはっきりせず、また坐骨神経痛の走行に個人差も有ることから、確実な効果を得ることはやや困難です。

 神経の圧迫がある程度の期間に及ぶと、その除圧を目的として手術を選択することもあるのですが、手術は症状の進行を食い止めるといった目的でなされると思っておいてください。死んでしまった神経は再生しないのです。しかし、手術を受ける人は、治療への過度の期待から、結果に不満を持つこともまれではありません。治療前に整形外科医から詳細な説明がなされていると思うのですが、期待が大きいと手術のデメリットや合併症への言及を聞き落としてしまうと言うことはありがちです。

 大昔、我々のご先祖が竪穴式住居などに住んでいて、トラや狼の脅威に曝されていた頃は、筋肉が老化・萎縮して腰椎辷り症を引き起こしたり、腰椎前が神経根を圧迫して腰痛を発生させるといった事態になる前にこの世とおさらばしていたので、腰痛が問題になることは無かっただろうと思います。腰痛や坐骨神経痛は、言わば現代医療と生活の質の向上の副産物だとも言えるのです。腰椎の前彎が起こらないように腹筋を鍛えたり、骨粗鬆症にならないように食生活等の生活改善で対抗するのがもっとも理に適った方法かもしれません。


2015年9月2日水曜日

坐骨神経痛-1

 坐骨神経痛とは一般に良く聞く名前で、かなりポピュラーなものですが、これは一群の症状についた名前であり、病名ではありません。坐骨神経は末梢神経のなかで最も太く長い神経です。第4、5腰神経と第1~3仙骨神経からなり、梨状筋の下を通って大腿後面を下行し、膝の裏で総腓骨神経と脛骨神経に分かれます。神経が腰椎の隙間から出て骨盤をくぐり抜け、お尻の筋肉から顔を出す間のどこかで、圧迫を受けた結果として発症するのが坐骨神経痛です。

 年齢により異なりますが、若い人の場合最も多いのは、腰椎椎間板ヘルニア、次に梨状筋症候群が挙げられます。腰椎椎間板ヘルニアは比較的急激に発症し、仰向けの状態で下肢を伸展挙上すると坐骨神経痛が増強する(これをラセーグ徴候といいます)のが特徴的です。ほとんどの場合、片側の坐骨神経痛が出現しますが、ヘルニアの位置や大きさにより両側に見られることもあります。梨状筋症候群は比較的緩徐に発生し、通常はラセーグ徴候が陰性となります。梨状筋間で坐骨神経が絞扼され、仕事や運動でストレスが加わり発症することが多いようです。

 一方、高齢者では変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの変形疾患に多く見られ、また帯状疱疹により坐骨神経痛を発症する場合もあります。その他、年齢に関係なく特殊な疾患として、脊髄腫瘍や骨盤内腫瘍などが挙げられます。こういった腫瘍性の病変で坐骨神経痛を発症する場合は、痛みが非常に強く、保存的治療で治りにくいのが特徴です。

 原因疾患に関わらず、まずは症状を緩和する対症療法が主体です。日常生活の指導→薬物療法→理学治療→ブロック注射の順で治療を進め、それでも痛みが軽減しない場合や歩行障害、麻痺といった他の神経症状を合併する場合に手術が行われます。急激に発症する腰椎椎間板ヘルニアの場合、まずは安静が原則です。高齢者の変形性腰椎症や腰部脊柱管狭窄症などの場合、必ずしも安静が必要とは言えませんが、下位腰椎にかかる重荷を減らす目的で、長時間の座位姿勢を避けたり、コルセットを装着することも有用です。

 非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服薬や坐薬が主に用いられます。比較的長期間投与される場合が多いため、胃腸障害などの副作用に注意しながら使用します。また、腰脊柱管狭窄症では神経組織内での血流障害が原因の一つと考えられており、循環改善を目的としてプロスタグランディン(PG)製剤の内服や注射も用いられます。温熱治療としてホットパックや極超短波などが用いられます。腰痛を合併する場合に牽引療法もよく用いられていますが、治療期間を短縮するほどの効果が有るとは言えません。しかし、リラクゼーションという立場からも疼痛を軽減させる一つの手段であると考えて良いと思います。

2015年8月24日月曜日

地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂

 8月の20、21、22の三日間をかけて、兵庫県の養成医師の卵うち16名を迎えて「地域医療夏季セミナー2015 in 浜坂」を開催しました。医学部の学生さんたちですから、即戦力になるわけではありません。しかし、普段はあまり見かけることのない20歳前後の若い医学生を迎えて、とても病院がにぎやかになり、活気が出てきました。20日の午後に病院に到着、簡単な挨拶と各部署の案内の後、私はいったん若い人たちから離れ、普段の業務を行いました。そして19時ごろ、庁舎の多目的ホールに町民のみなさんをお招きして、病院の紹介、学生さんからの発表、そして質疑応答を行いました。
会場の椅子の8~9割がたが埋まりました

 こうした行事には必ずと言っていいほど、「院長あいさつ」なるものがついて回ります。私は、ご存知の方もおられるかもしれませんが、あいさつなどが苦手です。内心ひそかに『皆さん、こんばんは。今日はよくいらっしゃいました。以上。』といったことで切り上げてしまいたい、などと思っていましたら、病院の事務方が私の意図を事前に察知したのか原稿を準備していました。自分でも不思議なのですが、学会でスライドを前にすると、30分が1時間になっても、別段プレゼンに困ることはありません。

 一般的に挨拶では、高々2分ほどしゃべれば言い訳で、学会発表の際でしたらスライド2枚分程度なので、簡単に覚えられるはずです。ところが覚えられない。どうやら、読み上げるべき原稿として私に手渡されたものが私自身の言葉で書かれていない、このことがかなり大きいと思いつきました。いくつか表現を普段の私の言葉に置き換えてみました。文章を短くして記憶への負荷を小さくもしました。それでも覚えるのが難儀です。もしかすると記憶障害?そういえば、当院の八幡君が受け持つ外来に認知症外来と言うのがあるといってました…
発表した学生チーム、八幡医師、岡山教授、土江参事

 結局悪あがきはやめて、読み上げることにしました。ああ、格好悪い!!それはともかく、夏季セミナーは成功裏に終わったと言っていいでしょう。なんといっても、多目的ホールでの講演会がほぼ満席になるとは全く予想できませんでした。そして町民の方々を交えた質疑応答も、中には学生さんたちをたじたじとさせるものもありましたが、町民の方々の医療への思い、浜坂病院への期待などがにじみ出ていて、私たちにとっても大いに励みになりました。

 翌日は学生さんたちを歓待して、バーベキュー大会を行いました。
ウマハギを3枚におろして刺身にする副町長


浜坂を支える100 t の漁船
ミュージシャンが来てくれて会を盛り上げました




浜坂漁港の一角をお借りできたので、時折ぱらつく雨を気にすることもなく盛大にバーベキュー大会を盛り上げることができ、学生さんたちにこの新温泉町の現状を強く印象付けることができたのではないでしょうか。
『歓待していただき、厚く御礼申し上げます』と医学生代表より
このような試みは来年以降も続けて行きたいと思っています。どうか、こうした私たちの取り組みにご理解とご協力を賜りますよう、お願いいたします。m(_ _)m

2015年8月13日木曜日

脊椎の構造と痛みの発生


 脊椎の形態、運動面で正確に機能している場合に痛みが起こることはありません。つまり、腰痛は脊椎の機能ユニットやその周辺のどこかで痛みに感受性のある組織が刺激を受けて興奮していることになります。それは脊椎の機能障害を示唆します。痛みを起こしている状態の大部分が腰椎と仙骨のなす角度が増大したことによります。これは脊椎前彎と言われる状態です。運動と無関係に起こる腰痛の75%が脊椎前腕を有していると言うことです。そのあたりのことを以下に詳しく述べます。

 脊柱は分節が連結したものです。各分節は、脊椎の中での位置によって形に違いがありますが、ごく一部を除いてとても類似しています。胸の部分は背骨から前のほうに肋骨が出ていて、大きな管のような構造になっており、比較的構造が保たれやすくなっています。問題は腰の部分です。加齢とともに筋力は低下してきます。そうすると、背骨の自然なカーブを保つために作用していた腹筋の筋力低下のために、腰の部分の背骨が前方に大きく湾曲するようになります。

 脊椎前腕の最大のポイントが仙骨と腰椎の間の角度が大きくなると言う形で現れます。この角度が大きくなると、腰椎が前方に辷る(すべる)と言うことが起こり易くなります(腰椎辷り症)。この辷り症を起こさない様にする自然の対策は椎間板を楔形にして、腰椎体が前方にすべる力に対してブレーキをかけることですが、そのために今度は椎体後面が直接接触する(kissing supine)と言うことが起こります。これまた痛みの原因になります。またもう一つ、痛みの原因となる事を考えなければなりません。

 背骨の後方を構成する骨の上下間の隙間(椎間孔)が狭くなり、神経が圧迫されると痛みや痺れが見られるようになりますし、運動神経が圧迫されると力が入りにくくなります。こうした事態を避けるには腹筋を鍛えておくことが重要です。何もへとへとになるまで筋トレをする必要はありません。起床時に足を20度ほど上げる(両足を同時に上げるほうが望ましい)、その際に上体も20度ほど起こして、お尻を真ん中にしてV字形に30秒保ってください。そうしたら30秒休んで、さらに30秒の腹筋、30秒休んでもう一度という具合に3回やってください。

 両足を挙上する時に上体も起こす理由は、足だけ挙上すると背骨がそっくり返って、その位置でロックされてしまい、ますます背骨のカーブがひどくなる可能性があるからです。この運動を2ヶ月も続けると、姿勢が良くなります。もしかすると身長も伸びるかもしれません。大きく前方にカーブしていた背骨が少しゆるいカーブになるからです。もしかすると、計測上ではわからない程度かもしれませんが、姿勢が良くなると、腰痛発生の原因のひとつを除去することが出来ます。

 骨盤牽引も良い対処法です。その際、骨盤下のストラップを牽引することで骨盤を挙上させ、前彎を減少させることが出来ます。骨盤牽引と言うリハビリテーションは、引っ張っているときは気持ちがいいけど、その時間が終わると元の木阿弥、そう感じている方が多いと思います。しかし、痛みと言うのはとてもデリケートな問題で、ちょっとした事で大きく変わってきます。私など、若い自分に何かに頭をぶつけてうずくまっていたときに、よちよち歩きの自分の子供がそばに寄ってきて、頭にもみじ葉のような小さな手を添えて『痛いの痛いの飛んで行け~』とやってくれたら痛みが退いて行ったと言う経験があります。かように痛みは微妙な気分に左右されるのです。

 ですから、リハビリの部署まで歩いていって、信頼できる理学療法士の指導を受けてリハビリに励むと、それだけで痛みがある程度和らぐ人が少なくないと思うのです。そして、毎日の積み重ねで気が付かないうちに仙骨の角度付けが小さくなり、腰痛を起こす原因の一つがある程度取り除かれていると言うことも考えられます。要は辛抱強い積み重ねなのです。そうした方法で痛みが取れない場合、薬物を局所に注入すると言う手段がとられることがあります。

 筋、靭帯、椎間関節から起こる痛みに神経脱落症状が同時に見られることはまれで、横突起間靭帯付近に局所麻酔薬を注射すれば痛みが消えることが多いと経験上わかっています。消えない場合、そのあたりを電気焼灼することで痛みが消退することもあるのですが、この電気焼灼はそれなりに複雑な手続きが必要ですので、当院では行っていません。

 腰痛の発生には、高血圧や糖尿病のように生活習慣に起因する面が多いので、どこそこに行けば治してくれる、などと考えないで、自分で出来るだけ腰痛発生の原因を減らして健康で快適な生活を送るようにする、これが一番大事です。常識的なことしか書けないでごめんなさいと言うところですが、自分の健康は自分で守る、それが一番快適だしお金もかかりません。

2015年8月7日金曜日

加齢と腰痛


 高齢者の宿命として腰痛があります。腰痛の原因としては様々なものがあり、Ehrlichさん(腰痛を専門としているお医者さん)によると世界中の様々な文化圏で同様な発生頻度を持っているそうです。そして病院や診療所を受診する際の最も一般的な理由だと言われています。急性腰痛は治療とあまり関係無しに3ヶ月以内に治まるとも述べています。これは外からの恒常的な刺激無しに組織の損傷が治癒していくのに要する期間と言い換えてもいいでしょう。一方慢性腰痛は様々な問題をはらんでいます。外科的な方法で問題解決を図ることも少なくありませんが、満足できる結果になることは少ないようです。

 もちろん腰痛の中には脊椎や骨盤とそれを囲む筋肉に原因が無いものもあり、そちらのほうには腹部大動脈瘤が急に大きくなって破裂間際と言う奴とか、内臓疾患で痛みが腰背部に放散するために生じたものなどもあり、致命傷となるものがありますので、全部が全部痛み止めの貼付剤を処方すればいいといった安易な対処では時としてとても具合の悪い事態になる場合があります。もっとも、長いこと同じような部位が同じような具合に痛むと言う場合には、そういったことは余り考えなくてもいいと思います。

 物理的な原因による背部痛には、バイク事故、転落、骨粗鬆症による圧迫骨折、長期間のステロイド処方を原因とした骨粗鬆症などが挙げられます。他には椎骨の感染、骨腫瘍、椎体への転移等もまれにはあります。こうした原因の特定できるものはEhrlichさんによれば全体の20%以下らしいのです。英国では背部痛が原因の欠勤が延べ1億日にのぼるとされています。原因がはっきりしない背部痛は、一般に立位の姿勢と関係していると思われていますが、そうではなさそうです。ただし、肥満と妊娠後期は脊椎の不自然な『曲がり』の原因になりえます。そのほか舗装道路上でのジョギング、車の座席に長時間座りっぱなしなどというのも背部痛を誘発します。

 一般に腰痛に対する治療としては以下のようなものがあげられます。
1.        非ステロイド性消炎鎮痛剤
2.        麻薬
3.        コルセット装着
4.        筋トレ、リハビリや体操など
5.        ステロイド性消炎鎮痛剤
6.        三環抗鬱剤
7.        中枢性筋弛緩剤
8.        温泉
 
 いずれの手段を用いても、目指す腰痛の解消に至ることはまれです。特に慢性の腰痛に関しては、まず痛みがなくなることはありません。

1. 非ステロイド性消炎鎮痛剤は一応痛みを自制内に押さえ込むことが出来ます。しかし長期連用で様々な問題を引き起こすのです。消化管の『荒れ』を予防するために、胃粘膜保護剤などを同時に服用する必要が出てきますし、長期連用で腎臓へのダメージが顕在化することもあります。またその種類によっては心血管系に良くない影響を及ぼすと言う報告もあります。

2. 麻薬はお奨めできません。うつろな瞳と震える手で『薬(ヤク)をくれ~』などといっている姿を想像してください。冗談はさておき、麻薬の副作用は多岐にわたります。消化管の蠕動運動が抑制されますので、便秘になりがちです。胆嚢も胆汁がたまって柿羊羹のようになることがあります。服用量を間違えると呼吸したいと言う気持ちが消えうせることもありますし、蕁麻疹やかゆみの原因になることもまれではありません。

3. コルセット装着で一時的に楽になりますが、筋肉が萎縮して行ってやがてコルセット無しではやっていけなくなります。しかも、廃用性に筋肉が萎縮すると、コルセットが骨に当たってそこが痛くなると言うことも起こります。長期にわたって装着すべきではありません。

4. 筋トレ、リハビリや体操はきちんとやればそれなりに効果があるのですが、きちんとやることが難しい。同じような、そしてある程度肉体的な苦痛を伴うことを長期間反復して行うことは、多くの人にとって難しいものです。筋トレやリハビリの最大の難点がそこにあります。

5. ステロイド性の薬剤もまた一時的な効果しかなく、ステロイド性糖尿病、ステロイド性骨粗鬆症、電解質異常、ホルモンバランス異常、感染症にかかりやすくなるなどの問題が噴出するので好ましい解決策とはいえません。

6. 三環抗鬱剤は睡眠のサイクルに対して影響してくるので、服薬の時間やタイミングなどに神経を使う必要があります。

7. 中枢性筋弛緩剤も効果が限られています。むしろ急性腰痛症(ぎっくり腰など)に使うべきかもしれません。これは一過性の筋力低下を伴うので、転倒⇒骨折と言う危険が付きまといます。

8. 温泉療法はわが国で発達したもので、リハビリ施設などでも用いられることがありますが、効果の客観的評価が難しいので、一般化されていません。しかし泉質の良いぬるめの温泉にゆっくり浸かると疲れが取れるのは間違いありません。この方法の最大の難点はコストです。私は井筒屋さんの屋上の温泉が大好きなのですが、食事などを注文しないでそ知らぬ顔をして利用するのはルール違反ですね。

 ではどうすればいいのでしょうか。いくつかの原因については、早めに予防することが出来ます。その予防とは骨粗鬆症にならないようにすることです。男性は加齢による骨格の脆弱化が女性よりゆっくりやってきます。女性は閉経に伴って、カルシウム代謝が大きく変化し、骨粗鬆症の発生に向かっていきますので、それを予防することが大切です。まず骨に必要なカルシウムをちゃんと摂取することが大切です。

 カルシウムは消化管から吸収されて、血液に溶け込み、体のいろんな部位で大切な役割を果たしていますが、血液中のカルシウム濃度が低いと骨からカルシウムを借りてきます。赤字国債のようなものです。血中カルシウム値が上昇したら借りた分を返すことも出来るのですが、消化管からの吸収率も低下してきますので、返却できるようにはなりません。ですから、私たちが出来るお手伝いは、まずカルシウムの吸収を良くし、体で利用しやすいようにすること、そしてカルシウムが不足するときに骨から借りてくるのを邪魔すること(銀行の貸し渋りにあたる)です。さらに骨の組織で新たに骨格構造を作っていくということも考えられます。

 こうした治療法を組み合わせながら何とか腰痛をなだめすかして生きて行く。そういったことしか言えません。しばらく、私が当院で向き合っている様々な痛みについて、述べて行きたいと思います。