2015年3月13日金曜日

運動不足は肥満よりも危険


 医療従事者向けのWeb雑誌が複数あります。それらの中に上記のタイトルを見つけました。私も普段の生活は座ってばかりで、これではよろしくないと内心では考えていますので、その記事を読んでみました。そのついでに一部をはしょってご紹介しましょう。以下がその記事の内容(一部省略)です。

 座ってばかりの生活は、肥満の2倍有害である可能性が新たな研究で示され、「American Journal of Clinical Nutrition」に114日掲載された。しかし、120分の早歩き程度の運動により、早期死亡リスクを30%低減することも可能だという。

 研究の筆頭著者である英ケンブリッジ大学のUlf Ekelund氏は、「運動不足の人は、運動量をわずかに増やす努力をするだけで大きな健康効果が得られる」と述べている。このリスク低減は、正常体重、過体重および肥満のいずれの人にも認められたという。公衆衛生の観点から、身体活動レベルの増大は肥満の低減と同じくらい、あるいはそれ以上に重要であると付け加えている。

 今回の研究では、334,000人の男女のデータを収集。平均12年の追跡期間中、被験者は身長、体重、胴囲を測定し、身体活動レベルを自己申告した。その結果、全く運動しない場合に比べ、中程度の運動が早期死亡リスクを低減する鍵となることがわかった。1日に90110カロリーを消費する運動により、早期死亡リスクを1630%低減できると研究グループは推定している。

 中等度の運動による効果は正常体重の人で最も高かったが、過体重および肥満の人にも便益が認められた。最新のデータを用いると、ヨーロッパの男女において920万件の死亡のうち337,000件が肥満に関連するものであると推定されたが、運動不足に関連すると思われる死亡数はその2倍であったという。

 「ヒトの身体をみると、骨や筋肉は不規則な変わった形をしている。この筋骨格の構造から、人体は動くためにできていることがわかる」と、米ニューヨーク大学メディカルセンター(ニューヨーク)のSamantha Heller氏はいう。人体の運動への適応力は驚くべきものであり、有酸素運動は免疫系を刺激し、精神機能を向上させ、エネルギーを増大させ、筋肉や骨を強化し、心疾患、がん、糖尿病などの慢性疾患リスクを低減すると同氏は指摘している。

 以上で引用を終わります。毎日早足で20分歩くこと、この程度の運動であれば比較的取り組みやすいのではないでしょうか。もし、雪に閉じ込められて歩けない、というのであれば、ステッパーを買い込んで、屋内で運動をすることも考えてください。それでも充分有効性は認められそうですね。


2015年2月26日木曜日

人は如何に騙されやすいか


 一酸化二水素(Dihydro-Mono-Oxide = DHMO)、何のことだか解りますか。この物質についていくつかの性質を列挙します。

1.DHMOは無色、無臭、無味であるが、毎年多数の人々を死に至らしめている。
2.DHMOは水酸の一種で、酸性雨の主成分であり、温室効果にも大きな効果を持つ物質である。
3.化学反応において、酸とアルカリを中和した際などに生じる副産物にも大量に含まれている。
4.DHMOの分解には大量のエネルギーが必要で、分解後には高濃度の水素ガスが発生する。
5.液体のDHMOを呼吸器系に吸引すると急性の呼吸不全を引き起こすことがある。
6.経口摂取で発汗、多尿、腹部膨満感、嘔気、嘔吐、電解質異常、悪心、下痢、腹痛、頭痛を来すことがある。
7.大量に摂取すると痙攣、意識障害等の中毒症状を引き起こし、最悪の場合死に至る。
8.重度の熱傷の原因であり、固体の状態のDHMOが長時間人体に触れていると体組織障害を起こす。
9.気体状態でも危険な性質を持ち、人体に触れると糜爛性の傷害を受けることがある。爆発的な性質を持つことから、発電にも用いられる。
10.不妊男性の精液や、死亡した胎児の羊水、癌細胞から多量に検出される。
11.バイオテクノロジー分野においても、動物実験や遺伝子操作などの過程で用いられている。
12.ある種のジャンクフードにも大量に含まれ、パッケージしたものを飲用に販売している業者さえある。
13.農薬散布にも使われ、汚染は洗浄後も残る。
14.金属を腐食させ、自動車の電気系統の異常やブレーキ機能低下を来す。
15.工業的に溶媒や冷却剤などとしてコンビナートや原子力施設で大量に使用され、そのほとんどは河川に投棄されている。

15年ほど前だったともいますが、米国で中学生が、『人は如何に騙されやすいか』と言うテーマの実証実験のために上述のような性質を持つ『一酸化二水素』を毒物として規制すべきかどうか、と言うアンケートを実施し、50人中この一酸化二水素が水のことだと気が付いたのは一人だけだったと言う有名な話があります。

 どんな物質でも、表現の仕方を変えれば様々な印象を人に与えることが出来ると言う例になります。上述の例は決して嘘を言っている訳ではありません。毎年多くの人が溺死しますし、水分子は双極子として酸の性質を持っています。酸とアルカリの中和で出来るものは、HイオンとOHイオンの結合ですから、水になります。その他の項目も、至極当然のことなのです。しかし熱傷の原因、原発で使われる、金属を腐食させる、酸性雨の主成分などと並べられると、むむっと考え込んでしまいますね。

 この例はわざと人を煙に巻くと言う目的で提示されたものですが、そうではなく、意図的に物事の本質を見えなくするために似たようなことが行われることは、各方面で行われているようです。現代は一昔前と比べて、私たちに流れ込む情報量が比較にならないほど多くなっています。その情報の洪水の中で、個々の情報の『本質』を見極めるのはとても難しいのですが、絶対必要な情報だけを吟味して、取り込んでいく必要があると思われます。


2015年2月20日金曜日

糖尿病:この厄介な病気


 糖尿病は現代の日本でとてもポピュラーな病気です。この40年間にわが国は高度成長を遂げましたが、経済成長率をはるかに凌駕して糖尿病患者数が激増しました。40年前の約3万人から近年700万人程度にまで増加しており、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を含めると2000万人に及ぶとも言われています。

 糖尿病はもちろん高血糖そのものによる症状を起こします(のどの渇きや多尿など)。しかし大きな問題になるのは糖毒性によるものです。罹病期間が長期にわたると血液中の高濃度グルコースの一部(0.1%前後だったと思います)が直鎖型になり、その直鎖グルコースの一方の端にあるアルデヒド基(ホルマリンのようなもの)の反応性の高さのため血管内皮のタンパク質と結合(これを糖化反応といいます)し、体中の微小血管が徐々に破壊されていき、目、腎臓を含む体中の様々な臓器に重大な障害(糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症)を及ぼすのです。

 さらに インスリンは、栄養素の同化を促進し、筋肉、脂肪組織、肝臓に取り込みます。ところが、細胞内にブドウ糖を取り込んでも、それを利用することが出来ませんので、浸透圧で細胞が膨れてきます。血管が膨れると血管の内腔が狭くなり、そのために高血圧になりやすくなります。このように糖尿病は万病の元、なんとしても回避する必要があるのです。ところが、一方でこの病気はその初期に何の自覚症状も出現しません。

 もともと食べるのが大好きで、どうしても過食になってしまう人がⅡ型糖尿病になりがちと言う傾向があります。健診などで『境界型の糖尿病です』などと指摘されても、自覚症状がないために、あまり気に留めずに食べたいものを食べたいだけ食べるという生活を続けることが多いのです。その結果、だんだん顔色が悪くなり、むくみがひどくなり、とても日々の活動が辛くなる、病院を受診したところ透析が必要だと言われてしまう、などということが起こります。

 その時点で、糖尿病の重大な合併症である微小血管障害が発生してしまっています。その障害を受けた血管は元に戻すことが出来ません。糖尿病は血糖値が急に上昇するような食生活を続けることで、インスリン分泌細胞が能力以上に働かされて、インスリンを大量に作るようになるところから始まります。インスリンは栄養素を同化して体内に取り込むので、二重の意味で太ります。栄養過多による体重増加とインスリンによる肥満です。肥満すると体のインスリン抵抗性が増します(インスリンが効き難くなる)ので、膵臓にかかる負担はますますきつくなります。

 食べてからワン・クッション置いてインスリンが大量に分泌され、かなり高くなった血糖値がいきなり下がる、そうすると栄養は充分行き届いているのに空腹を感じて甘いものを欲するようになる、そこでおやつなどを食べてしまう、さらに太るという何重もの悪循環に陥ります。ますます太り、インスリンの要求量がさらに増加し、体内のインスリン生産工場が疲弊して部分的な操業停止に追い込まれます。細胞は必ずしもそうした過重労働に対してすべてが同じレベルでダウンするわけではないからです。

 つまり食後にインスリンの出が悪くなり、食後高血糖の度合いがひどくなる。こうして全身の状態がどんどん悪くなる。これが糖尿病です。こうなる前、インスリンがまだ正常に作られているときに生活習慣を改めると、糖尿病の進行をストップすることが出来るのではないかと私は考えています。ではいかにして悪しき食生活習慣を改めるか。賛否両論がありますが、私は糖質制限ダイエットが最も理に適っていると考えています。その理由は二つ。一つ目は栄養士さんが勧める糖尿病食よりも自制心が少なくて済むという点です。

 私は経験のためにある病院の糖尿病食を食べてみたことがあります。一言でその味を表すと『まずい』ということになります。甘辛、というのはわれわれが慣れ親しんだ調味の基本です。それがいずれも使えない。だから我々の味覚からすれば美味しいと感じることが出来なくなります。それに分量が少なく、満腹できない。もっとも、美味しくない食事だから分量も少なくてちょうどいいのだろうなどと勘繰りたくなりますが、分量の少なさも絶望的です。つまり、味の上からも量の上からも満足できない。

 それに対して糖質制限食はまず野菜を食べる。特に根菜とかかぼちゃなど、でんぷんをたくさん含むものを減らして葉っぱ物を食べます。加熱調理したものならおひたし、生野菜も大いに結構。たくさん食べてください。ドレッシングはレモン汁とオリーブ油、少量の塩分を生野菜の上にかけるのが一番簡単です。次に豆腐、魚、肉などのたんぱく質。これもたらふく食べて結構です。そうした食事の合間にチーズ、ヨーグルトなどを食べましょう。そしてご飯、これは少量です。しかしそれまでに充分満腹していると思いますので、最後の締めはあっさりと、です。

 理由の二つ目は安全だということ。極端なデンプン質の制限はいけません。120g以下というのを提唱している人もいますが、これはやめてください。ご飯は一食で1/4合ほど。これだと13食で糖質の摂取量が120gほどになり、程よいところです。固ゆでのゆで卵ダイエットなど単一の食べ物を食べて痩せるというのがありましたが、薦められません。栄養のバランスが悪いのです。絶食、これは普通の人が数日間とかだったら危険はないと思いますが、その後の食の解禁日に気をつけてください。消化管の上皮細胞が大部分剥奪してしまっているのでいきなり食べると危険です。

 糖尿病が進むと、心筋梗塞などで急死するか、透析を受けながら何かと不便な生活を送るか、眼が見えないようになって不自由するか、足が腐ってきて追加切断を繰り返すか、あるいは急死以外のいくつか上述の症状が重なるか、決して明るい未来はありません。日常生活を送る上でも様々な制約が課せられるようになります。糖尿病予備軍の方はいうに及ばず、ちょっと太り気味の方も、栄養のとり方を考えてください。

2015年2月13日金曜日

睡眠時無呼吸を調べる装置

 数日前にこの機械を借り出すことが出来ました。購入前に使い勝手などを調べておこうと言うものです。とても小さなもので、本体を腕にバンドでとめ、指先に血液中の酸素の分量を測る装置をつけ、鼻に細いチューブを装着してそこから呼気中の炭酸ガス濃度を測定、それを一晩中続けて、その結果を解析すると言うものです。とても小さなもので、これを装着したまま眠れたらそれでOKです。私自身が被験者になって試して見ました。

 私はどちらかと言うと神経質なほうで、どこででも眠れると言うわけではありません。最初病院当直のときに装着してみようと思ったのですが、ただでさえ枕が替わって安眠できないのに、こんな妙なものまでくっつけたらほとんど眠れないのではないか、そう案じて当直の翌日、下宿で就寝時に試してみたのです。装着した直後には確かに違和感を覚えましたが、いつの間にか寝入っていました。多分どなたでも大丈夫だと思います。そしてこの機械は基本的に通院していただき、使い方についての説明を受けた後にご自宅に持って帰っていただくことになります。

 その際何らかの書類をお渡しするので、それに記入していただく。そんな手順になります。そして2日間の間、連続して測定して、装置を返却しに来院していただく。二晩の検査結果を解析して、睡眠時無呼吸症候群と診断されるかどうかを見ます。もし、診断されたら、今度は睡眠時に気道に弱い陽圧をかける装置を手配しますので、ご自宅で睡眠中に装着していただくことになります。その装置を装着することがすなわち治療になるのです。費用は3割負担の方で月々1500円前後になると思います。

 この本体に機械的な打撃を加えたり、これを腕に巻きつけたまま入浴したり、豪雨の中で屋外作業したりすると壊れますので、機械を壊さないで用いる自信のない方、自信はあるけど周囲からやめたほうがいいと助言を受けそうな方には入院していただいて検査します。機械は1台しかありませんので、貸し出したらその翌々日には返却していただかなくてはなりません。

 ところで、睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気でしょうか。眠り込むと体中の筋肉が柔らかくなります。首の周りの組織も当然その筋肉部分が柔ら苦なります。思い出してください。赤ん坊のほっぺたを。すべすべ、つるつるで軟らかいのですが、我々高齢者のほっぺたと比べると、弾力があります。弾力があってやわらかいのと、弾力がなくて軟らかいのでは全く違います。赤ん坊は全身どこを見ても弾力があってやわらかい。丸々としていても、睡眠時無呼吸にはなりません。もっとも未熟児は呼吸中枢が未発達で、時々呼吸を忘れて無呼吸になることがありますけど。

 大人の場合、軟らかいけど弾力がないので、気道の周りの空間がその周辺の組織に押されて気道が狭くなりがちです。ましてや太り気味の人だと、気道を狭くする力が強く働くのです。鼾のきついひとなど、その気道狭窄の兆候と見ることができます。そして睡眠中に気道の狭窄や閉塞が起きると、当然苦しい。その苦しさのために眠りが中断されて突如大きな呼吸をします。しかしその場合も、半分眠った状態ですので、翌朝までそのことを記憶にとどめることがありません。

 そして夜間、呼吸苦のために中途覚醒してあえぎ呼吸をする際に血圧、血糖値などが上昇し、血液中のストレス・ホルモン濃度も当然上昇します。これが累積して、糖尿病、高血圧、そのほか様々な生活習慣病とリンクして、より悪化させるのです。ですから、肥満はそれ自体で健康に悪い、肥満でインスリンの効きが悪くなるので糖尿病に悪い、肥満で呼吸苦が出現してそのことで昼間時々爆睡するので、事故を誘発して危ない、睡眠時無呼吸が高血圧に悪い、糖尿病にも悪い、と言うことになり、様々に結びついて生活習慣病をよりいっそう悪化させるのです。

 食事の厳格なコントロールは難しいかもしれません。しかし、まず直せる所から治して行こうではありませんか。4月からは当院で睡眠時無呼吸の簡便な検査を始めます。大人の半分近くがその危険性を持っていると言われています。是非一度検査を受けてください。そして睡眠時無呼吸であることが判明したら、陽圧装置をつけて、睡眠を安寧なものにしてください。

 最初の写真は装置をつけてみたところです。装置そのものは左腕にバンドで固定していますが、装置が内側に来て、見えませんね。左人差し指の先につけているのが血液中の酸素を測定する装置、そして鼻にチューブが来ているのがお分かりと思いますが、このチューブから呼気中の炭酸ガスを測定し、呼吸が止まったら装置にその記録が残るようになります。



2015年2月5日木曜日

眠りの質


 年をとってくると、多くの人が不眠を訴えるようになります。単に眠れないと訴える人、夜トイレに起きることが多くなって、眠りが妨げられると訴える人、寝付けなくなったと言う人、寝ても3時間ほどで眼が覚めてしまうという人、その他にも様々な症状を訴えて外来にやってきます。いろいろ話を聞いていると、昼間ふらふらすることが多いようです。どうやら、眠剤を飲みすぎて、その影響が翌日になっても残っているようです。眠剤の多くは肩こりや腰痛の差異にも処方することのある、“中枢性筋弛緩薬”としての作用を有しています。

 眠気が残っていて、筋肉に力が入らない、そんな状態が翌日も続くので、転倒、骨折などが起こりやすくなります。年をとってくると、骨のカルシウム密度が低下してきますし、そのカルシウムをきっちり組織内に縛り付けているコラーゲン繊維ももろくなってきますので、とても骨折しやすくなります。このような状況で起こる骨折には、脊椎の圧迫骨折と大腿骨頚部の骨折が多く、米国などでは大腿骨骨折の治療に保険が支払われないとか、保険に加入してないから使えないなどといった問題があり、治療に難儀しているようです。

 眠りの質が悪くなると、このように眠剤を多用するようになり、転倒による骨折を引き起こす可能性が高くなります。しかし不眠はそのほかにも様々な悪影響をもたらします。まず、眠れないで布団の中で寝返りを打ったり、ぼんやりと考え事などをしていると、腎臓の働きが活発になり、おしっこが睡眠時よりもたくさん作られるようになります。したがってトイレに起きる。そうすると、それまでぼんやりしていた意識がくっきりしてきて、ますます眠れなくなります。

 また眠れないと、ストレスホルモンが睡眠時よりもたくさん分泌され、それが原因で血圧が上り、また血糖値も上ります。糖尿病や高血圧をお持ちの片にとっては、病気を悪化させる原因にもなるのです。事実良眠を得られない状態が続くと、心筋梗塞などの振血管系のトラブルが増えると言う報告もあります。睡眠はとても大事なのです。ではどうして年をとると眠りの質が悪くなるのでしょうか。

 頭の中で一日の変動(太陽の位置や明るさなど)にあわせて、いろんな物質の作られる速度が変化していきます。概日リズムなどと言いますが、睡眠と重要な関係のある物質にメラトニンと言うのがあり、夜間、睡眠に入る頃に(その少し前から)メラトニンの血中濃度が増加します。つまりメラトニンが体内で作られているのです。そのメラトニンが睡眠と深い関係にあることもわかっています。一般に若いときのほうがその時間ー濃度曲線が触れ幅が大きく、年をとるにつれてだんだんメラトニンの出が悪くなります。

 それと平行して睡眠の質が悪くなってくるので、その点に注目してメラトニンの誘導体のような物質が最近眠剤として用いられるようになりました。しかしそれで万事OKという訳ではありません。赤ん坊の肌をほっぺたなどを触ってみると、我々高齢者の肌とは弾力が違います。これは全身、どこでもそうです。首の回りも年とともに、赤ん坊のようなすばらしい弾力性が失われていきます。その弾力性の乏しい首周りに脂肪がつくと、特に仰向けに寝ているときにその脂肪の重みで気道が圧迫されて呼吸がしにくいようになってきます。

 ひどくなると、睡眠時無呼吸症候群といわれるような状態になっていきます。睡眠中に気道が閉塞して呼吸が止まる。無意識の息こらえ状態です。それが一晩に何十回と無く繰り返されます。そのストレスが原因で、高血圧、糖尿病はどんどん悪化していくのです。また、このために日中いきなり爆睡と言うことが頻繁に見られるようになります。生活の質が低下してくるのです。ご自宅では、配偶者の方から一定の間隔でいびきが聞こえなくなる、と言うことを聞くこともあります。

 睡眠時無呼吸症候群の治療は、簡単な装具を装着して眠ると言うことですが、そのためにはきちんとその診断をしたうえで無いと、当然のことですが、保険が適応されなくなるのです。現在私どもの病院に数名の方がその治療のために装具をつけて暮らしていますが、大人の3割程度が肥満とすれば、潜在的にはその数がずっと多いと思います。この病気になると、日中と頃構わず睡魔が襲ってきますので、自動車の運転などが危険になります。

 この4月から、当院で睡眠時無呼吸の診断を行う予定です。目の前でちょっと眠ってくださいと言うわけには行かない(私たちの観察するところでいきなり眠ると言う特技の持ち主はかなりまれだと思います)ので、一泊もしくは2泊の入院と言うことになりますが、その入院で睡眠中の諸データを解析して、睡眠時無呼吸症候群の診断を得たら、治療開始と言う手順になります。治療は、鼻マスクのようなものを装着して眠ると言うもので、そのマスクは機械と接続されています。私の友人はそれをつけてから、昼間いきなり睡魔に襲われることがなくなったと言っていました。

 最近太った、最近いびきがうるさくなった、最近昼間眠くなる、そんな自覚をお持ちの方は四月以降に気軽に当院を受診してください。もしこの病気でないことが確認できたら、心配事が一つ減ることになります。もしこの病気だと判明すれば、将来高い確率で起こす居眠り運転の事故を未然に防げることになります。いずれにしても受けておいて損は無い、その様な検査です。

2015年1月30日金曜日

ゲテモノ食いとその結末


 『妙なものを食べない』と言う一文を『病気と治癒』の本文中に入れたのですが、その具体例を挙げます。ある友人が妙なものを食べる嗜好を持っていました。牛の肝臓を生食いするのです。近くの焼肉屋さんにほぼ毎日のように食べに行って、私の目から見るとかなり怪しげな肉を食べていました。そしてその一部はレバーに限らず生食いしていたのです。あるとき、そのいきさつは忘れましたが、彼のおなかのCTを撮影したら、肝臓に丸い影が一つ、その近くに小さな影が複数認められました。

 当然彼はびっくりしたことでしょう。消化器内科の友人のところにその写真を持っていって尋ねました。多分そのとき彼は顔面蒼白だった。消化器科では彼を慰めるつもりで、『この大きい奴を核出して、小さなのを全部ラジオ波で焼けば、半年は生きられる。気を落とさないように』と言ったのです。蒼白な顔が真っ青になったと思います。その友人の部下で出来た男がいて、もしかすると…そう疑った彼は上司から採血してある種の検査を行いました。

 寄生虫の抗体価を調べたのです。ビンゴでした。肝臓に出来た影は腫瘍ではなく、寄生虫によるものだったのです。彼が通っていた焼肉屋さんは彼の転勤の後、程なく店をたたんでしまいました。毎月彼一人で25万円ほどをその焼肉屋さんにつぎ込んでいて、その彼が行かなくなったのです。当然店のやりくりが厳しくなるはずです。一つの店の経営を左右するほど、その店に通い詰め、そこで様々な肉を生食いしていたのです。充分起こりそうなことが起こったと言うことです。

 私も昔似たような経験をしたことがありました。まだ20歳を少し越えた頃に、槍ヶ岳に登り、殺生小屋に一泊しました。前夜、北鎌尾根の独立標高点の少し前で雷のために髪の毛が立ち、びっくりして荷物をほったらかして土のあるところまで逃げ下り、そこで這い松の根っこにしがみついて荒れ狂う雷雨を眺めて過したのです。翌日は気力がなえてテント泊をやめて小屋に転がり込んだのですが、そこで小屋の主に肉を勧められました。味噌漬けの肉でそれを焼いてあります。何の肉か当ててみな、と言う訳です。

 それはツキノワグマの肉でした。そこの親父が言うには冬眠前の熊の肉は脂が乗っていてうまい。薄くスライスして生姜醤油で食べると、肉の脂肪が仄かにミルクの様に香って美味しい。そう聞いて、私の家の近くにジビエ用の食材専門店に行きました。そして熊の肉のスライスした奴を購入、その店のスタッフからも生姜醤油で生食いすると美味しいと言う話を聞いて、試してみました。とても美味しかったのです。ところがその翌々日、新聞報道で、熊肉を生食いして死亡した男性の記事が載っていました。

 それから一年ほどの間、おなかが痛くなったり、下痢をしたりすると熊肉生食いのせいではないかと思って、かなり焦りました。妙なものを食ってはいけないと言う教訓を得たのでした。


2015年1月22日木曜日

病気と治癒


 生まれてから死ぬまでの間に人は何度も病気に罹ります。風邪、腸炎、扁桃炎、中耳炎、各種生活習慣病、癌、脳梗塞、心筋梗塞、COPD、肝炎、腎不全などなど、病気の種類をここに全部上げることは不可能です。そして、若い頃に罹る多くの病気は、何らかの医療上の介入をして、あるいは介入なしに、治って行きます。あるものはきれいに治ることなく、進行を遅らせると言った手段しか持ち合わせていませんし、急激に発症して手の打ちようのないものもあります。

 通常は治る病気でも、放置していて、ある一線を越えると病院に担ぎ込んでも手の打ちようのないものもあります。普通の風邪でも体が弱っているときに罹って、それを放置して攻撃因子のほうが体の抵抗力を打ち破ってしまった状況になると、医療上の介入によってそれを何とかこちらに引き戻すと言うのはほぼ不可能と言っていいでしょう。あるいは、多くの生活習慣病は、ある意味『マッチポンプ』のような状態になっています。

 甘いものを食べてはいけないと言われていてもどうしても甘いものに手が伸びてしまう、その結果摂取した糖が血流に乗って体中に運ばれ、糖毒性のために微細な血管や神経などが破壊されていく状態が起こりますが、その病の進行過程ではほとんど自覚症状がないので、カロリーの摂り過ぎ、糖質の摂り過ぎがよくないと言っても馬耳東風の状態が珍しくありません。そしていよいよ深刻な症状を本人が自覚する頃には、もう治癒する可能性はなくなっているのです。

 そのことが必ずしも良くないことかどうか、それは私に判断できません。各人がその時点での欲求を満たすことと将来の健康を秤にかけたときに、どちらをとるか、それは各人の人生観に委ねられるからです。ただ、将来の慢性疾患の苦痛は、それを経験していないと過小評価してしまいます。それ自体は責められることではありません。将来の経験したこともない苦痛に対して、人は想像力豊かになれないのです。ですから、これはこどもの時分に望ましい生活習慣を身につけさせておく必要があると言う気がします。

 糖尿病になって、足の一部が黒く変色し、体の節々が痛い。そんな状態になって病院に駆け込んで、健康になって退院したいと思っても、それは不可能。病院で出来ることは壊死がそれ以上広がらないように切断してしまうこと、しばらく様子を見ていてさらに追加切断と言うこともあります。肺癌になって肺を切除すると、切除前より肺活量が減り、歩行などの運動負荷に対して弱くなります。しかも手術に必要な入院期間中の筋力低下のために、運動負荷へのしんどさは倍増するのです。

 では、どんな生活をしたらそうした病気にならないか。どんな人でも必ず体の各臓器がへたって行きます。それはどんなに大事に乗っていても自動車が走行距離に応じて傷んでくるのと似ています。体の各臓器がさびてくるのです。ですから私たちは出来るだけ、臓器の傷みが来るのを遅らせるように気をつけるしかありません。具体的にはタバコを吸わない、酒を飲まない、野菜から先に食べる、ゆっくり食べる、食べ過ぎない、極端な味付けのものを食べない、妙なものを食べない、熱い状態のものを食べない、間食をしない、早寝早起きをする、熱いお風呂に入らない、毎日適度な有酸素運動をする、ストレスを持ち越さない、などなど、思いつくままにあげてみました。

 そんな生活はつまらない、そう思う方が多いのではないかと思います。普段の生活では、将来の苦痛よりも現在の楽しみを選ぶ、そういう人がその生活のせいで病気になったら、ある程度覚悟を決めて、凛々しく病気に向き合って頂きたいと思います。どう足掻いても、結局体を病気以前の状態に戻すことは出来ないのです。そして、その病気が発症するまで体をいたぶり続けたのは自分自身なのですから。